第5話(第2話)
ナギとタリスが旅を始めて1年がたとうとしていた。二人はもうすぐ17歳になる。
「ほら、あの村だよ」
ナギは山を下ったところにある小さな村を指差す。
「次はあそこにしようと思うんだ」
ナギの言葉に、少女の表情が曇る。
「強い魔法使いはいない。近くに町はない。何かが起こっても、すぐに気づかれることはない」
ナギは魔力感知ですでにあたりを調べていた。
「いつものように、下見に行ってくれる? 念には念を入れたいから」
少女は何も言わなかった。重たい息を吐くとフードをかぶり、とぼとぼと山を下りていった。
「ありがとう。どうだった?」
「若い人が多い。女性と子どもばかり。ほとんどの男性は外に働きにでてるんだって。ちょうど今朝、出発したみたいで、帰ってくるのは3、4日かかるみたい」
「いつもそんな感じ?」
「うん。みんな一緒に仕事に行って、一緒に帰ってくるんだって」
「そうか。それは都合がいい」
ナギは顎に手を置く。
「よし。じゃあ今夜にしよう。今夜、全員殺そう」
少女は、ナギがそう言うだろうとわかっていた。わかっていたが、言わずにはいられなかった。
「あの村……。赤ん坊がたくさんいた。身籠っている人も」
「へえ」
なんの感情もこもっていない相槌だった。
「あの村じゃなくてもいいんじゃない? 他の場所を探せば?」
「どんな人がいる場所なら、殺してもいいの?」
「……それは……」
少女は何も言えず、下を向いた。
「誰を殺すかは重要ではない。どれだけ殺すかが、重要なんだ」
ナギの言葉が、少女の体にのしかかる。この人に何を言っても無駄なのだと、何度思い知らされていることか。
「あなたは……、あなたは、やっぱり何かが欠けている。決定的に」
「そうだね。だけど、だからこそ、僕ほど『魔王』にふさわしい人間はいないんじゃないかな?」
ナギに見つめられ、少女は目をそらす。
「変更はなしだ。今夜、決行する。そして4日後、タリスとともに来る。そのころには、村の男性たちが帰ってきてるはずだから、ちょうどいいだろう」
「……私は、一度戻らせてもらう」
「もちろん。送ってあげるよ」
ナギの足元に転送魔法の陣が現れた。
「また必要になったら呼びに行くから、待ってて」
少女は無言のまま、光の中へ入った。
少女は隣にいるナギを、横目でちらっと盗み見る。彼は子どものころと、何も変わっていない。
彼の本質は、昔からずっとこうだった。
狂気的な思考回路と行動で、親からも少し気味悪がられていた。
少女は、ナギにタリスという親友がいることは知っていた。彼と旅をしていること、その彼を欺いていること。それが、気がかりでならなかった。
「大丈夫。タリスは僕のことを理解している。僕がこうすると決めたことは、絶対にやりとげると信じている。だから僕は、タリスには疑われない。だって、僕らの夢は同じなんだから」
少女は知っていた。
タリスという人の夢と、ナギの夢を。
子どものころに、ナギが話してくれた日のことを、少女は今でも鮮明に覚えていた。
「タリスは僕を殺して、『勇者』になるんだよ」
タリスの夢は、『勇者になる』こと。
ナギの夢は、『タリスを勇者にする』こと。
少女は彼に選ばれてしまった。
彼らの夢を叶えるための、駒として。




