第3話(第4話)
タリスとナギが旅を始めて3年がたち、二人は19歳になっていた。
「タリス。村を見つけた。だがまた、間に合わなかった」
偵察のため、一人先へと進んでいたナギが2日ぶりに戻ってきた。
ナギは相変わらず無表情だったが、その言葉から、タリスは何が起こったのかを理解した。
タリスはナギの転送魔法で、村へと移動した。
村はそれほど荒れてはいなかった。
建物は壊されておらず、家畜は殺されていなかった。
だが、そこに住む村人は、全員死んでいた。外傷はほとんどなく、苦しんだ形跡も見られなかった。
「僕が着いたときには、もう騎士団が入っていた。今朝、たまたま近くを偵察していて、村を訪ねようとしたら、すでにこうなっていたそうだ」
村人の遺体は、騎士団の手によって村の中心に集められ、埋葬の準備が進められていた。
タリスとナギは、魔王を倒すために旅をしていた。
魔王が滅ぼした村や町を辿っていけば、必ず魔王を見つけられると考えていた。
魔王を探しているのは彼らだけではなかった。腕利きの魔法使いたちが魔王討伐を目標に掲げ、国の騎士たちも血眼になって魔王を探していた。
けれど、誰もがいつも、一歩遅かった。
魔王は彼らの包囲網にかかることはなく、その姿を見たものはほとんどいない。影より暗い色をした、黒い化物だと噂されているが、それが本当なのかどうかを知る人間はいなかった。
埋葬の手伝いをしたあと、二人はそのまま村で休むことにした。
「ナギ。騎士団の人がわけてくれた」
タリスは硬いパンをナギに渡すと、豪快にガブッとかぶりついた。パンくずがパラパラと服に落ちているが、タリスは気にしない。
「タリス。まだ、心は折れてないか?」
ナギがパンを手で少しずつちぎって食べている間に、タリスはほとんど食べ終わっていた。
「当たり前だ。折れることはない。魔王を倒すそのときまで、俺は進み続けるぞ」
「勇者になるために?」
「ああ。なる」
「誰か他の人に任せたら駄目なのか?」
「駄目じゃないさ。魔王を倒せるなら、誰が倒したっていい。だけど、勇者は俺の憧れだから。というか、知ってるだろ? 俺が憧れていること。今さら聞かなくても」
「ああ」
ナギの目つきが柔らかくなる。
子どものころから「勇者になる」は、タリスの口癖だった。
「魔王は過去何度もこの世界に現れている。その度に、誰かが魔王を倒している。だからこの世界はまだ滅んでいない。その『誰か』は、『勇者』だ」
タリスの声が熱を帯びる。この話をすると、タリスは止まらなくなる。
「昔、僕がした噂話を覚えてるか?」
「勇者の噂ってやつか?」
「ああ。過去の勇者は、誰一人として魔王を倒していない、という噂だ」
ナギが話始めると、タリスの表情が少し曇った。
「倒してるだろ? 現に、魔王は消滅している」
「そう。だが魔王は、『勇者自身の力』によって倒されたわけではないらしい」
「勇者アルト、勇者カーラ、勇者サモン。彼らが魔王を倒したのは事実だ。彼らの功績は、きちんと語り継がれている」
タリスはナギに力説した。
勇者アルトは老いという病と闘いながら仲間とともに魔王を倒したことを。
勇者カーラは女性でありながら剣と魔法の達人で、何十年と世界を恐怖に陥れた魔王を見つけ出し、葬り去ったことを。
勇者サモンは一撃で世界を滅ぼせるほどの威力を持った魔王の攻撃を防ぎ、世界を救ったことを。
タリスは歴代の勇者の英雄談が大好きだった。子どものころに勇者の存在を知ってから、勇者は彼にとってあこがれの存在となった。
「その話は知っているよ」
「そりゃそうだ。俺が何百回も言ってるからな」
何百回は、大げさな数ではなく、事実である。
「勇者はみんな、魔王を倒せるほどに強かったんだ。それを疑う必要があるか?」
「僕も噂で聞いただけだから、真偽のほどはわからない。ただ聞いた話では、勇者という称号を持つ彼らは、誰一人として自分の力で魔王を倒していないそうだ」
タリスが眉をひそめる。
「今さらこんな話をして、何が言いたいんだ?」
「勇者と呼ばれた彼らは、たしかにとてつもなく強かった。それは疑わない。だけどそれだけの力があっても、自身の力のみでは魔王を倒すことはできなかった。それが真実なら、僕らがどれだけ戦おうとも、通常の手段では誰も魔王を倒せやしないんじゃないかって。そもそも僕らは魔王の姿すらとらえられていない。こんな状況で倒すなんていうのは、夢のまた夢なんじゃないかと思えてくるんだ」
タリスとナギは強かった。
けれど、過去の勇者たちと比べると、果たしてそれほどの力があるのだろうか。
「仮に勇者が倒していなくても、魔王が倒されたところに勇者がいたのは事実だ。勇者のとった行動が、結果的に魔王を倒すきっかけになっているのだとしたら、十分だ」
タリスの心は、折れていなかった。
「歴代の勇者が、自分の力ではなく、何かを犠牲にして魔王を倒していたとしたら、それでも憧れるか?」
「そうだとしたら、彼らはその悲しみを乗り越えたうえで、魔王を倒しているんだ。その心の強さは、尊敬に値する」
タリスの描く勇者像は、こんなことでは崩れない。
「まあ、もうすぐその噂の真偽がわかるさ。俺が魔王を倒して、そんな噂は嘘だってことを、証明するんだからな。ははっ」
タリスが大口をあけて笑う。それをナギは、どこか悲しそうに見つめていた。




