第2話(第5話)
タリスとナギが旅を始めて4年がたち、二人は20歳になっていた。
「これはひどい……」
悲惨な光景に、タリスは顔を歪める。
魔王を探す旅の途中。小さな町に立ち寄ったタリスとナギが目にしたのは、魔王に殺された人々の、無惨な姿であった。
「これまでも多くの人が殺されたが、ここまで残酷な殺され方ではなかった……。ナギ、どう思う?」
ナギはゆっくりとあたりを見回す。
手足が潰された女性、腹に大きな穴があいた男性、下半身がなくなっている老婆。
「魔王に何か変化があったか、はたまた、ただの気まぐれか」
ナギの声に恐れの色はなく、いつもと同じ静かな口調だった。
タリスたちは生きている人がいないか、手分けして見て回った。
「ナギ……。俺のほうは、駄目だった。そっちは―― 」
タリスはそこで口を閉ざした。
ナギが、町の一番奥にある家の前で立ち止まっていたのだ。
タリスがナギのほうに近くと、そこには首から上がない女性の遺体が横たわっていた。物置きの側でたった一人、隠れるように。体つきからして、かなり若い女性ようだ。
女性の手には、少し歪んだ、花の形をしたペンダントが握りしめられていた。
「こんな隅っこで……。追い詰められて、殺されたのか……」
タリスは唇をかみしめる。女性の最後を思うと、後悔とやりきれない思いが全身を駆け巡った。もう少し早く来ていれば、助けられたかもしれないのに、と。
己の無力さに立ちすくむタリスとは対照的に、ナギはゆっくりとその場に膝をついた。
冷たくなってしまった女性の手から、そっとペンダントの紐を外す。
「こんなところで死ぬのは、怖かっただろうな」
そう呟くと、ペンダントを両手で優しくつつみ込んだ。
「大丈夫。僕が、きみと一緒にいてあげる」
そう言って、自分の首にペンダントをかけた。
ナギはいつでも冷静だ。それゆえ、冷たい人間だと思われることが多い。だがタリスは知っていた。ナギは誰よりも熱く、意志の強い男だということを。
「僕はいつものように、偵察に行ってくる。その間、ここのことを頼んだ」
「ナギ。今回は、俺も一緒に行く」
「駄目だ。ここの人たちのことを、見ててやってくれ」
「危険だ! 今の魔王はこれまでとはあきらかに様子が違う! 一人でいけば、いくらおまえでも無事ではいられない!」
タリスは声を荒げた。
「危険なのはいつものことだ。偵察は俺の担当。気配を消すのは得意だ。これまでも、一度だって魔王に見つかっていないだろ?」
「おまえの能力を疑っているわけじゃない! いつも完璧なのはわかっている! それでも、今回は危険だ!」
「僕が先に行って、転送魔法の目印を置く。目印があるところなら、転送魔法で行き来できる。お前を無傷で先まで連れて行ってやれるんだ」
「だが――」
「それに、僕は魔力感知も得意だ。近くに敵がいれば、すぐにわかる。転送魔法と魔力感知。この2つがあれば、僕は死なない」
「……だけど……」
ナギはタリスの肩に手を置く。
「だからタリス。魔王はおまえが倒してくれ。おまえは、勇者になるんだ」
ナギの手に、力が入る。手の熱が、強い想いが、タリスに伝わる。
「僕が道を切り開くから。おまえが、万全の状態で魔王と戦えるように。僕はおまえを信じている。だから、おまえも僕を信じてくれ」
「……わかった。だが、3日たっても戻らなければ、転送魔法の魔道具で勝手におまえのところまで行くからな」
タリスは手首につけた腕輪を触る。
その腕輪と同じものが、ナギの手首にもあった。
「わかっている。だけど、それを使うことはないさ。いつも通り、ちゃんとおまえを迎えに来る」
ナギは荷物を持ち上げると、森へと入っていった。
「ナギ!」
ナギの姿がかろうじて見える距離から、タリスは叫んだ。
「俺は勇者になる! ずっと憧れていた勇者に! 世界を救うんだ! それをお前に見てもらいたいんだ!」
ナギは右手をあげると、また歩きだした。
タリスはわかっていた。ナギも同じ気持ちだということを。
ナギが町を後にしてから3日たった。
ナギは、タリスを迎えには来なかった。




