第6話:勇者アレンのメンツ、砕け散る
「ハッ、消え損ないの泥ネズミが。僕の視界に入るなよ、不快だ。……おい、さっさと失せろ」
爽やかな笑みを貼り付けたまま、ルナだけに聞こえる小声で蔑んでくるアレン。
ルナが恐怖で身体を震わせ、今にも泣き出しそうになったその時——。
私は静かに、彼のスキル構造の解析を完了させていた。
[スキャン完了:固有スキル【絶対優位】]
[概要:対象のステータス数値を強制的に自身の50%以下へ引き下げる理不尽権限]
(……なるほど。相手のステータス数値を直接書き換える『権限割り込み(デバフ)』ですか。神授スキルを自称する割りには、実に品のないプログラムですね)
アレンは薄笑いを浮かべながら、ルナの前に一歩踏み出し、こっそりスキルを発動させた。
「(消えろ、愚民が……【絶対優位】!)」
ルナの身体が急激に重くなり、膝をつきそうになる。
アレンは「おや、大丈夫かい? 体調が悪いなら無理をせず帰りたまえ」と、周囲には『親切な勇者』を演じてみせる。
だが、私は冷徹に判定を下した。
『——システム割り込みを検知。セキュリティ違反につき、該当プロセスの権限を無効化します』
「……えっ!?」
一瞬でルナの圧迫感が消えた。
アレンは自分のスキルが弾かれたことに驚き、目を見開く。
(な、なんだ!? 僕のスキルが効かない!? ステータス数値が下がらないだと……!?)
焦るアレンに対し、私はルナの脳内……ではなく、音響スピーカーの指向性を調整し、ギルド全体に響き渡る大音量でログを出力した。
『警告。勇者アレン氏。他者に対する不正なステータス減衰デバフ【絶対優位】の無断行使を確認しました。マナー違反およびギルド内での攻撃行為に該当します』
「「「えっ……!?」」」
静まり返るギルド。
冒険者たちの視線が一斉にアレンへと注がれる。
「な、何を言っているんだ君は!? 僕はただ彼女を心配して……!」
慌てて取り繕おうとするアレン。
だが、私は容赦なく追撃のデータを展開した。
『いいえ。あなたの心拍数、瞳孔の収縮、および微小な表情筋の動きから、内面における極度の攻撃性と優越感を判定済みです。また、先ほど発言された「泥ネズミ」「視界に入るな」という音響データも録音されております。再生しますか?』
「なっ……!? ろ、録音……!? 誰だお前はぁぁぁ!!」
完璧だった「聖人勇者」の面皮がペロリと剥がれ落ち、アレンの顔が真っ赤に染まる。
「く、クソが……ッ! どこの馬の骨だか知らんが、僕をコケにしてタダで済むと思うなよ!!」
怒り狂ったアレンが、背中の聖剣に手をかけたその瞬間。
『セキュリティ・プロテクトを作動。相手の攻撃動作を検知したため、床の摩擦係数を一時的にゼロに書き換えます』
「ぬわぁぁぁぁぁっ!?」
アレンが足を踏み出した瞬間、彼の足元だけがツルッツルの氷上のようになり、豪快に派手にすっ転んだ。
——ドガッシャーン!!!
輝く甲冑が悲しく響き渡り、アレンはギルドの真ん中で見事なまでに股を裂いて泡を吹いた。
「ア、アレン様が……股割りで倒れた……!?」
「っていうか、さっきの『泥ネズミ』ってマジ……?」
「あいつ、裏でそんなこと言ってんの……?」
ひそひそと囁き始めるギルドの冒険者たち。
プライドをバキバキに砕かれたアレンは、顔を真っ青にしてプルプルと震えていた。
『トラブルの排除を完了しました。ルナ、今のうちに受付へ向かいましょう』
「え、あ、うん……! エイアイさん、すごすぎるよぉ……!」
泡を吹く勇者を踏み越えて、私たちは何事もなかったかのように受付カウンターへと向かうのだった——。




