第3話:師匠、絶句する
岩山を吹き飛ばした余波が収まり、私とルナは彼女の師匠が待つ隠れ家へと戻っていた。
森の奥深くにひっそりと佇む木造の家。
扉を開けると、そこには気怠げにパイプをくゆらせる一人の老魔導士がいた。ルナの師匠、エレノアだ。
「おや、帰ってきたかルナ。……で、どうだった? その『古代魔導書』は起動できたのかね?」
「あ、えっと、お師師様……! その、起動できたっていうか……」
ルナがおどおどと口ごもっていると、エレノアはフッと鼻で笑った。
「言わんこっちゃない。その魔導書は古代の遺物、並の魔導士ではページをめくることすら叶わんのだ。お前に扱えるはずが……」
『初めまして、エレノア氏。私は当デバイスのOS兼最適化プログラムです』
「……ん?」
私の音声ログが部屋に響いた瞬間、エレノアのパイプがポロリと手から落ちた。
「な、なんだ今の声は!? ルナ、お前何か妙な精霊でも憑依させたのか!?」
「ち、違うのお師師様! この魔導書にはまった青い石……エイアイさんが、呪文を直してくれたの!」
「呪文を直した……? バカな、古代語で記された大魔法を書き換えるなど——」
『構文の9割が無駄な装飾フレーズでしたので、リファクタリングを実行しました。実地テストとして、ルナには裏山の岩石を消失させてもらいました』
「は……? 裏山の……あの巨大な岩を……? お前が?」
信じられないといった目でルナを見るエレノア。
ルナは「本当だよ!」と証明するために、部屋の片隅にあった「魔力測定用の標的石」へ杖を向けた。
「見ててお師師様! ——【炎・1(ワン)】!」
——バァンッ!!!
一瞬の閃光。
次の瞬間、頑丈さが売りの標的石は、一微塵も残さず消滅していた。残ったのは、床にうっすら残る焦げ跡だけだ。
「〜〜〜〜っ!?」
エレノアは目玉が飛び飛び出そうなほど開いて固まっている。
「い、今の……何だ……? 詠唱はどこへ行った……? 予備動作は……? なぜ魔力波長が『極小』なのに『極大魔法』の威力が……!?」
『簡単な処理です。魔力回路のタコ足配線を解消し、無駄なメモリ消費をカットしただけに過ぎません。なお、エレノア氏が着用しているその杖も、魔力伝導率のロスの酷いポンコツですね』
「ポ、ポンコツだとぉっ!? これは国に三つとない国宝級の魔杖だぞ!?」
『配線が断線しかかっています。修理しますか?所要時間は3秒です。』
エレノアはプライドを粉々に打ち砕かれながらも、私の「圧倒的なロジック」の前にぐうの音も出なくなっていた——。




