第26話:お師匠様のおつかい! 幻の食材狩りと超デバッグ料理
前回の「薬草採集(山貫通)」から数日後。
お昼時、お師匠様の家でリビングのテーブルを囲んでいた私たちは、切実な問題に直面していた。
「……ハァ。またこの『カチコチパンと塩スープ』か……」
お師匠様が、皿の上のカチコチに固くなったパンをツンツンと突きながら溜め息をつく。
「うぅ……ごめんなさいお師師様……私、料理の火加減とか味付けがよくわかんなくて……」
ルナが申し訳なさそうにシュンと首をすくめる。
ルナの料理スキルは、かつての魔法適性と同レベル。スープを作れば味が無かったり焦げ付いたり、パンを焼けば岩のように硬くなるのだった。
『ルナ、気に病む必要はありません。料理とは科学であり、熱伝導率とアミノ酸分解の最適化に過ぎません』
「えっ? かがく……?」
『ええ。お師匠様、美味しい料理が食べたいのであれば、相応の最高級食材を調達してきてください。ルナと私で最高の一皿へとデバッグ(調理)してみせます』
「ほう……! そこまで言うか! よし、なら『極上肉』を調達してこい!」
お師匠様がバッと紙に地図を描いてルナに手渡した。
「裏山の深部に生息する『ギガントブア(超巨大猪)』の肉だ! 筋が多くて硬いが、旨味は世界一と言われている! 採ってこれたら酒のツマミにしてやるぞ!」
「極上肉……! よーし、お師師様のために最高のお肉をゲットしてくるね!」
裏山の深部。
現れたのは、体長5メートルを超える巨大な猪モンスター『ギガントブア』だった。
「ブモォォォォッ!!」
「大きなブタさん……じゃなくてイノシシさんだ! エイアイさん、お肉を傷つけないように倒すにはどうしたらいいの!?」
『お任せください。相手の肉質を破壊せず、一瞬で中枢神経のみを麻痺させる「ピンポイント・電気デバッグ」を行います。ルナ、杖の先を相手の眉間に向けて【炎・2(ツー)】を「1%の出力」で放ってください』
「うんっ! 出力1%で……【炎・2(ツー)】!!」
ルナの杖の先から、極小の青いプラズマスパーク(スタンガンレベル)が放たれ、ギガントブアの眉間にヒット!
「ブモッ!?」
白目を剥いてバタンと倒れるギガントブア。完璧な血抜きと解体が、私のレーザーカットによって一瞬で完了した。
「すごーい! 一瞬でお肉になっちゃった!」
そこへ、またしても木の陰からデッキブラシを持ったアレンがフラフラと現れた。
「ひ、ひぃぃ……! またルナたちの爆音が聞こえたから逃げてきたのに……な、なんだその極上の『ギガントブア肉』は! 神界の貧しい賄い飯(冷えたおにぎり)より美味そうじゃないかぁぁっ!」
「あ、アレンさん! ちょうどいいところに来てくれた! お肉運ぶの手伝って〜!」
「なんで僕が荷物持ちを……って、断ったらまた正座させられるから運ぶよ畜生ぉぉぉっ!!」
アレンをパシリ兼荷物持ちにし、私たちは大量の極上肉を持って帰宅した。
お師匠様の家の厨房。
「さあ! お肉はとってきたよ! でもエイアイさん、このお肉って筋が多くて硬いんだよね……?」
『ええ。ですが分子構造を再配置すれば問題ありません。ルナ、包丁を持って私の指示通りに動いてください』
私がルナの手に青い光を照射し、包丁の軌道をアシストする。
[調理プログラム:細胞膜切削&熟成スピード最適化]
[熱処理:表面温度200℃/中心温度58℃(完璧なミディアムレア)]
「包丁をトントントン……火加減はこれくらい……?」
ルナが大雑把に切って炒めているだけに見えるが、私の光線が肉のタンパク質を分子レベルで分解し、旨味成分(イノシン酸)を通常の500倍に増幅させていく!
さらに、ルナのテキトーな調味料(醤油とハチミツ)の配合率をミリ単位でデバッグ補正!
——ジュワァァァァァァッ!!
厨房から、誰も嗅いだことのないような猛烈に芳醇で香ばしい香りが立ち込めた!
「な、なんだこの香りはぁぁぁっ!?」
リビングでお酒を飲んでいたお師匠様が、鼻をヒクヒクさせて厨房へ飛び込んできた。アレンも涎を垂らして目を輝かせている。
「できたよお師師様! エイアイさんと作った『超デバッグ・ギガントブアのステーキ』だよ!」
お皿に乗せられたのは、表面は美しい琥珀色に輝き、ナイフを入れた瞬間に肉汁が溢れ出す、まるで宝石のようなステーキだった。
お師匠様が震える手で肉を口に運ぶ。
「モグッ……う、うまぁぁぁぁぁぁぁいっ!?? なんじゃこの柔らかさはぁぁぁっ!? 噛んだ瞬間に肉が解けて、とろけるような旨味が口いっぱいに広がるぞ! 個人の家庭料理の域を超えておる!!」
「ほんと!? よかったぁぁ!」
「く、くそっ……僕にも一口食わせろ……モグッ……う、美味すぎるぅぅぅっ! 神界の神々が食ってる天界料理より美味いぞちくしょうぁぁぁっ!(号泣)」
アレンも号泣しながらステーキを貪り食っている。
『フッ……当然です。アミノ酸の配列を完璧に調整し、最高のスモーク効果を付与しましたからね』
こうして、ルナの料理下手は「エイアイの分子デバッグ」によって克服され(?)、お師匠様の家には毎日三ツ星レストラン級の料理が並ぶことになったのだった!




