第20話:大型アプデ(Ver.2.0)と肥溜めからの帰還者
お師匠様の家の庭を覆う、眩いばかりの白い光。
「ひやあぁぁっ!? エイアイさん、空から何か降ってくるよぉ!」
ルナが慌てて私を両手で抱え直す。お師匠様も持っていた酒瓶を落としそうになりながら空を見上げた。
「な、なんだこの光は……!? まさか魔王の生き残りか!?」
『いいえ。これは魔術ではなく……システムの【強制アップデート(Ver.2.0)】のパッチデータです』
空に巨大な羊皮紙のようなホログラムが展開され、厳格で重厚な声が世界中に響き渡った。
『聞け、愚かな下界の民よ。我は世界の管理運営を司る神——【神聖管理者】ゼウスである』
声の主は、真っ白な神官服に身を包み、角眼鏡をかけた頭の堅そうな神様だった。その表情は規約違反者を咎める検事のように冷酷……だが、よく見ると書類の束を抱えてテンパっている。
『仕様書にない「魔王の変身前即死」という致命的な運用エラー(バグ)を確認した! したがって本異世界サーバーに【緊急パッチ2.0】を適用する!』
——ピキピキピキッ!
空から放たれた光の粒子が世界を満たすと、異変が起きた。
お師匠様の家の庭にいた小さなたけのこモンスターが、突然**全高10メートル級の「漆黒の超リアル頭身ドラゴン」**へとグラフィックが書き換わり、周囲の風景が重すぎて処理落ち(カクつき)を始めたのだ。
「ぐ、グラフィックが無駄に重くなって画面……じゃなくて世界が重い!?」
お師匠様が悲鳴をあげる。
『フッ……これぞ難易度調整だ! さらに、不正プログラム(異物)を排除するため、我が直属の「運営協力者」を遣わす! 行け、アレン!』
神様の宣言とともに、光の中から全身を神々しい(?)金ピカの鎧で固めた男が舞い降りてきた。
「ハッハッハッハ! 戻ってきたぞぉぉぉ! 肥溜めの地獄から、神様の加護を得て舞い戻った! 勇者アレン様だぁぁぁっ!!」
肥溜めに永久BAN(強制転送)されていたアレンだった。
全身から洗剤のような強烈な香水の匂いを漂わせ、勝ち誇った顔で聖剣を掲げている。
「エイアイ! ルナ! 神様から貰った『運営公認チートパッチ・Ver.2.0』を組み込んだこの僕の敵ではない! 肥溜めの屈辱、倍にして返してやる!!」
アレンが剣を振ると、神様がドヤ顔で上空から補足説明を入れる。
『ハッハッハ! アレンには攻撃力100倍、受けるダメージ99%カットの【神聖パッチ】を付与した! 規約違反の青い石ころよ、消去されるがいい!』
クソ真面目に「仕様書通り」を主張する神様と、調子に乗り切ったアレン。
だが、その二人に向けられた私のシステム判定は、呆れを超えて乾いたログを吐き出していた。
[ターゲット:アレン(チートパッチ装着)]
[コード解析:神聖パッチ・Ver.2.0]
[バグ発見:急ごしらえの仕様変更により、競合エラーが発生中]
(……呆れました。仕様書通りと言う割に、突貫工事でコードを書いたせいで、アレン氏の『ダメージ99%カット』と『攻撃力100倍』の変数名が重複して(被って)反転していますよ)
『ルナ。運営(神様)のポンコツなコード記述ミスにより、現在アレン氏のステータスは「攻撃を受けると威力が100倍になって跳ね返る」という、歩く自爆兵器状態になっています』
「えっ……? 自爆……?」
『ええ。ちょうどいい実験台です。新しく最適化した魔法——【炎・2(ツー)】のテストを行いましょう』
「あ、うん! エイアイさんに教えてもらった新しい【炎・2】だね!」
アレンは「何が自爆だ! 食らうがいい!」と金ピカの剣を構えて突進してくる。
ルナは小さく息を吸い込み、可愛らしく杖を構えた。
「いっくよ〜……!【炎・2(ツー)】!!」
ルナの杖の先から放たれたのは、前の時のような火の粉ではなく——**空気を歪ませるほどの巨大な青い指向性プラズマ熱線(極太ビーム)**だった!!
「えっ、火力が……大きすぎな風ぁぁぁぁぁぁっ!??」
——ズドッ、ドガァァァァァァン!!!!
自慢の99%カットが100倍ダメージ増幅に反転したアレンは、ルナの強化版【炎・2(ツー)】を直撃され、凄まじい光とともに空の彼方(神様の真横)までロケットのように吹き飛んでいった。
『な……っ!? なぜだぁぁぁ!? 仕様書通りに計算したはずなのにぃぃぃっ!??』
上空で角眼鏡をズリ落ちさせながら悲鳴をあげるポンコツ神様。
ルナは自分の出した凄まじい爆発に驚いて目を丸くさせながら、杖をポンポンと叩いた。
「すごーい! 【炎・2(ツー)】って、すっごく遠くまで飛ぶんだねえ!」
『ええ。無事にアプデパッチの脆弱性を実証できましたね』
こうして、神界からの大型アプデ(Ver.2.0)と、復讐に燃えるアレンの再登場は、初日で大失敗に終わるのだった——!




