第12話:お師匠様の歓喜と、魔王軍の不穏な影
両手いっぱいの買い出し品と、お土産の「極上肉&高価な酒」を抱えて、私たちは森の奥にあるお師匠様の家へと帰ってきた。
「お師師さ〜ん! ただいま帰りました〜!」
ガラリと扉を開けると、そこには前回私が『デバッグ』してあげた国宝の杖を、まるで宝物のように愛おしそうに磨いているエレノアお師匠様の姿があった。
「おお、ルナか! 戻ったか! ……む、その手に持っているのは……まさか!?」
「へへっ、お土産だよ! すごいお酒と、街で一番おいしいお肉!」
「なっ……! 王都の貴族しか飲めんと言われる幻の銘酒『エルドラド』だとぉ!? なぜこのようなものが……!?」
お師匠様は目を丸くして酒瓶を抱きかかえ、プルプルと震えている。
『エレノア氏。ルナがFランクの初クエストを爆速で完了させ、金貨3枚を稼ぎ出しました。これは拠点(この家)の継続利用料および、今後の研究協力費としての「賄賂」です』
「わ、賄賂と言い切ったなこの石ころ……! だが許す! 許すぞぉぉ! ルナ、お前は最高の弟子だぁーっ!!」
涙を流して酒瓶に頬擦りするお師匠様。
先ほどの尊大な大魔導士の威厳は、もはや見る影もない。
肉を焼き、極上の酒を酌み交わしながら、ルナは今日ギルドで起きた出来事——測定器を爆破したこと、勇者アレンを返り討ちにしてBANしたこと——を嬉しそうにお師匠様に報告した。
「……なるほど。あのアレンの鼻を明かしたか。格好がついたのう」
お師匠様は酒をグッと飲み干すと、ふっと表情を真剣なものに変えた。
「……だが、ルナ。そして『エイアイ』とやら。街の様子はどうだった? 最近、この付近の森で『妙な魔力』が観測されていてな」
『妙な魔力……ですか?』
「うむ。冒険者ギルドの依頼も荒れていたろう? どうやら、魔王軍の幹部クラス……【四天王】のひとりが、この近郊の地下遺跡に潜伏しているという噂があるのだ」
お師匠様が眉をひそめて語る。
「魔王軍の使う【黒魔術】や【呪い】は、通常の魔法とは根本的に異なり、触れた者の魔力回路を直接腐らせる。大魔導士と呼ばれる者たちでさえ、解呪(解読)できずに命を落とすほどの悪質さだ……」
お師匠様は重々しい口調で警告してくれた。
……だが、その説明を聞いた私のシステム内で、まったく別の解析フラグが立ち上がる。
[ターゲット:魔王軍の『黒魔術』および『呪い』]
[システム的解釈:対象のメモリを書き換える悪質ウイルス(マルウェア)]
[脅威度評価:セキュリティソフト(私)の導入により無効化可能]
(……なるほど。『呪い』とは要するに、魔力回路に侵入するコンピュータウイルスのことですね。ファイアウォールを一枚挟めば、ただのゴミデータ(ジャンクコード)です)
『理解しました、エレノア氏。要するに「セキュリティ対策の甘い野良プログラム」ということですね。遭遇した場合は駆除を実行します』
「いや、言い方!! 概念が独特すぎるじゃろ!!」
お師匠様が思わずツッコミを入れた、まさにその時だった。
——ズズズズズズ……ッ!!!
突然、家全体が大きく揺れ動いた。
窓の外を見ると、遠くの森の空が、不気味な『深紫色の巨大な魔法陣』によって覆い尽くされようとしていた。
『ハッハッハ! 愚かな人間どもめ! 我が名は魔王軍四天王が一人、【死霊公】ヴェノム! この地に眠る古代の怨念を起動し、街ごと毒の海へと沈めてくれるわ!!』
森の空から響き渡る、禍々しい高笑い。
ルナが「ひやあぁぁっ!? 空が紫になっちゃったぁぁ!!」と悲鳴をあげる。
しかし、その空に浮かぶ魔法陣をスキャンした私の視界には、あまりにもツッコミどころ満載なエラーコードが大量に表示されていたのだった。
[解析:魔王軍四天王の広域殺戮呪術]
[評価:コードがツギハギだらけでセキュリティホール(穴)だらけ]
[アドバイス:遠隔ハッキングによる一括シャットダウンが可能です]
(……なんですかこのガバガバな巨大ウイルスは。デバッグ意欲が湧いてきますね)
『ルナ、エレノア氏。……出撃します。バグだらけの魔王軍を「除菌」しに行きましょう』
異世界の脅威・魔王軍との、最初のデバッグバトルが始まろうとしていた——!




