第10話:勇者アレンの難癖と、権限剥奪(BAN)
先ほど私に『床の摩擦係数をゼロ』にされて大恥をかかされたせいで、完璧だった王子の笑みは跡形もなく消え失せている。
「ア、アレン様……まだ足の怪我が……!」
取り巻きの冒険者が止めようとするが、アレンはそれを振り払い、ルナの胸倉を掴まんばかりの勢いで詰め寄った。
「すっとぼけるなよ……! Fランクの落ちこぼれが、たった15分で薬草全回収に『アサシン・ウルフ』の討伐だと……!? 不正だ! 明らかな不正行為だ!!」
怒号がギルド内に響き渡る。
ルナは「ひぅ……っ」と身を縮こまらせた。
アレンは勝ち誇ったような顔で、受付のリアに向かって叫ぶ。
「リア! こいつらを今すぐ不正行為でギルドから追放しろ! 神に選ばれたこの僕が何ヶ月もかけてランクを上げたというのに、こんなドブネズミが不正で評価を上げるなど断じて許されん!!」
理不尽極まりない言いがかりだ。
周りの冒険者たちも「いや、でもさっきの威力は本物だったし……」「アレン様、流石に見苦しいぞ……」と引き気味の視線を向けている。
だが、当のアレンは自分のプライドを守ることに必死で、周りが見えていないようだ。
(……やれやれ。自分の思い通りにならないとすぐバグだと騒ぐ、絵に描いたような悪質ユーザーですね)
私は冷静に、アレンのステータスウィンドウおよび『神授スキル』のシステム構造にアクセスした。
[ターゲット:勇者アレン]
[保有権限:『勇者(仮)』アクセスキー]
[セキュリティ評価:著しい規約違反(不正な権限行使、他者への不当な言いがかり)]
『アレン氏。あなたこそ、神授スキル【絶対優位】の権限を私的に乱用し、他者の活動を妨害しようとしています。これはシステム利用規約違反に該当します』
「ハッ! 規約だと!? 僕はこの世界の主人公、勇者だぞ!? 神から与えられた力(権限)を僕がどう使おうと僕の自由だ!!」
アレンはそう叫ぶと、腰の聖剣を抜き放ち、ルナに向かって振り下ろそうとした。
「邪魔をするなら、力ずくで排除してやる……!!」
ルナがぎゅっと目を瞑る。
だが、その剣が届くことはなかった。
『——悪質ユーザーを検知。管理者権限(管理者モード)を行使します』
次の瞬間、アレンの全身がバチバチと青いノイズ(エラーコード)に包まれた。
「な……んだ……!? 身体が……動か……っ!?」
『アカウント・ペナルティを実行。該当ユーザー『アレン』の勇者権限を一時凍結(BAN)します』
[処理結果]
・固有スキル【絶対優位】:封印(168時間)
・聖剣の所有権:一時無効化(タダのなまくら刀へ変更)
・全ステータス:一般人レベルへ一時ダウングレード
——カチャン。
アレンの手から聖剣が滑り落ちた。
その聖剣は、まるで光を失ったかのように、ただのサビついた鉄くずのような音を立てて床に転がった。
「が、僕の……僕の力が……消えた……!? 聖剣が……重くて持ち上がらない……!?」
アレンは青ざめた顔で自分の手を見つめ、ガクガクと震えだした。
『ペナルティ期間は1週間です。改心が見られない場合、永久BAN(アカウント削除)へ移行しますのでご注意ください』
「ひ……ひぃぃぃぃっ!! 妖怪……! こいつは妖怪だぁぁぁっ!!」
力を奪われ、ただの一般人(以下)になったアレンは、情けない悲鳴を上げながら、ガタガタと足をもつれさせてギルドから逃げ出していった。
静まり返るギルド。
受付のリアさんは、手元の端末と逃げていったアレンを交互に見比べ、乾いた声で呟いた。
「ゆ、勇者様が……BANされた……?」
『トラブル処理が完了しました。ルナ、報酬の金貨で温かいスープでも飲みに行きましょう』
「あ、うん……! エイアイさん、ありがとう……!」
こうして、絡んできた腹黒勇者を完全に「BAN(機能停止)」させた私たちは、優雅にギルドを後にするのだった——。




