1-6 『生まれて初めて』
一通りの説明を聞き終え、深く息を吐きながら目を閉じる。視覚情報を遮断し、脳内の情報処理を完結させて飲み込む。
初めこそ混乱は大きかったものの、落ち着いて整理すれば、簡単な話だ。
要は、立場の異なる日陰者のシロアリ同士が、社会という家屋の床下でドンパチしているというだけ。問題は、住人にはとても駆除できないほどシロアリが強大凶暴なことか。
「シロアリとは酷くないか?」
「何でもいいでしょう、ただの例えなんだから」
一蹴された『守護竜』は、それでも意に介していないのか、じっと真結を見つめ続ける。品定めするようなその目つきは、案外嫌いではない。他者に価値を見出す行為の是非はさておき、能力重視、損得勘定での人付き合いは合理的で理想的だ。
とはいえ、手放しに気分が良いとは言えない。
「……何?顔に何かついてる、なんてべタなことでも言うわけ?」
「ああ、よく回る口がついているな」
「なら国交、いえ、口交断絶ということで」
「待て待て冗談だ。やけに冷静だなと思っていただけだ」
ほとんど表情を崩さずに言い訳をするリュウジン・ライの言葉に、訝しむ。
「それ、皮肉?さっきまで私、頭がパンク寸前だったんだけど」
「だが、あっさり整理しきった。それだけじゃない。今日半日、お前は常に冷静だったさ」
竜が口を開けば開くほど、不信感が強まっていく。いったいこの男は、何を見ていたのだろう。マユイが推定透明人間であることが影響しているのだろうか。
なんにせよ、彼の評価は見当違いだ。本当に冷静に対処できたならば、あの場で誰にも発見されずに逃げおおせていたはずだ。いや、そもそも――
「本当に冷静だったら、3階には上がらなかった」
非日常を前に熱に浮かされて、物語の登場人物の一員を気取った突発的な行動なんて、愚の骨頂だろう。
後悔しているわけではない。永遠に変わらぬ日常など有り得ないわけで、訪れた変化に対して最初の一歩を自ら踏み出せたことは心地よく思う。その一歩が、あまりにも考え無しだったと反省しているだけで。
「ま、自分では気づきにくいかもな。考えても無意味な話なんて、やめだ、やめ。ひとまずっ――と」
おもむろに立ち上がり、つい今まで座っていた高級椅子を踵で軽く蹴るリュウジン・ライ。コツン、という効果音が聞こえそうな程度の、軽い接触。たったそれだけで、視界から椅子が突如消え去る。
竜は目を細め、歯を見せながら壁の方を親指で示す。それに従って、というよりは呆気に取られたままつられて見ると、そこには本棚と本棚の間にぴったりと完璧に収まった椅子があった。一切の音も無く。
「――意味のあることをしよう。これからの話とか、な」
常識外の現象に目を丸くし、表情が崩れた自覚のあるマユイは、心の中で呟く。竜は笑うのがヘタだな、と。
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カツ、カツ、という音とともに廊下を歩く。家具だけでなく廊下の床も豪奢な造りのようで、磨き上げられた大理石が正体不明の光源を反射している。
歩くたびに足音が響くのが居心地悪く感じられ、意識的に音を消す。履いている靴、自分の足がふわふわの毛や綿になったようなイメージを浮かべ、接地の瞬間の些細な衝撃をバネのように吸収して、音エネルギーへの変換を防ぐ。
タッ、タッ、くらいにはなっただろうか。
誰に迷惑を掛けているわけでも、文句を言われたわけでもない。マユイの自己満足、ちょっとした遊びのようなものだ。
「…………」
「場所を変えよう」と促され、廊下を歩き移動している。歩き始めてかれこれ5分くらいは経過しただろうか、この場所はあまりにも広いということだけは嫌でも理解させられる。
全体の雰囲気としては洋風の屋敷を彷彿とさせる様式だが、先ほども述べたように床がモダン風な大理石だったり、見える範囲どこにも窓が無かったりと、ちぐはぐで異様な建物である。そのうえ、超巨大なショッピングモールほどの広さを誇っているのだから驚きだ。
「そういえば、お前は普通に学校行ってるんだよな?」
無言の空気に堪えかねたのか、先導するリュウジン・ライが前を向いたまま問いかけてくる。
「ええ、通ってるけど。わざわざ聞くような変なことでもないでしょうに」
「いやなに、大したことではないんだが少し気になってな。お前、母親とは絶縁同然の別居状態で、父親は消息不明だろ?よくマトモな生活ができるなと」
「なんで知ってるのよ、ストーカー?」
「絶妙に否定しづらいな。お前が寝ている間に兎毬に頼んで調べさせたんだ。もっとも、時間が足りずに情報不足だが」
どうやら、身辺調査はあらかた済んでいたらしい。住所や生年月日のような個人情報も既に割れているのかもしれない。
そして、時間不足で調査が中途半端だというのも嘘ではないようだ。
「祖父が金持ちなのよ、昔の名家だとかで。あの廃ビルも、祖父の所有物」
「その祖父ってのは、母方か?」
「そうね。お父さんは、母と知り合った頃にはもう天涯孤独だったって聞いてる」
「そうか……やはり」
「やはり、何よ」
「…………」
再び訪れる沈黙。答える気は無いようだ。
今のやり取りのどこに、返答できないような都合の悪い要素があったというのか。ただの、マユイの親戚事情の公開ではないか。黙りこくるならむしろマユイの方ではないか。
タッ、タッ、と再び足音が響いて聞こえる。それに重なるように、ザッ、ザッ、という比較的柔らかな質感の音も鳴る。
マユイの後方、ヒト一人分ほどの距離を開けて歩いている巫女服の少女。彼女は柔らかな素材で出来た草履を履いているというのもあるが、歩き方も含め、所作の一つ一つが洗練されて丁寧だ。故に、足音も大きすぎず小さすぎず、綺麗に聞こえる。
「あの……」
そんな風な無駄な思考に耽っていた最中、気づけば、後ろにいたはずの兎毬が真横から声を掛けられる。
「ええっと、どうしたの?兎毬さん」
「いえ、差し出がましいことだとは思うのですが、申し上げたいことが御座いまして」
耳打ちのように小声で囁くのは、誰かに――リュウジン・ライに聞こえないように、という意図か。
ウサギを模した仮面が眼前すぐ近くに迫り、視覚情報の圧迫感が強い。赤と白、少々の金が視界の半分ほどを占めている。
「どうか、羅衣さまをあんまり悪く思わないで頂けると嬉しく御座います。あの方はただ、真結さまとの邂逅が嬉しくって舞い上がっておられるだけなのです」
「舞い上がっているって……随分と似合わない表現ね」
「はい、私もそう思います。ですが事実です」
竜の後ろ姿から目を離し、少女と顔を向き合わせる。相変わらず表情は仮面に阻まれて分からない。せいぜい、切れ目から僅かに覗き出る眼光と、口元が露わになっている程度。
だが、それらに加えて、先ほどの声と言葉が揃えば十分だ。彼女の感情を読み取るには十分すぎた。
――揺るぎない信用、全幅の信頼。愛情とすら呼べそうなそれは、リュウジン・ライへ向けられたものだろう。
「なんで、そこまで……?」
「羅衣さまは、私を……私たちを助けてくださいました。私は、あの方の全てを信じ、お慕い申しております」
「ふーん……それって恋愛的な」
「いえ、とんでもございません。そのようなこと、恐れ多く」
何気なく聞いてみただけだが、兎毬の返答には一切の迷いや欺瞞は感じ取られなかった。一片の曇りも無い、完成された忠誠。
これほどまでに心を捧げるとは、いったいどのような背景があるというのか。『助けられた』と言っていたが。
「歓談もそこそこにしておけ。到着だ」
「『閑談』の方が適切だと思うのだけど」
「そうかもな」
「ところで、今から何を始めるのよ」
話しているうちに辿り着いたのは、扉の前。建物全体の構造が不明なため推測しづらいが、おそらく、広めホール状の会議室のような部屋だろう。
道中も、廊下がごくわずかにだが緩やかなカーブを描いており、今入口に立っている部屋は、その中心辺りに位置すると思われる。
その場所で、いったい何をするのか未だに聞かされていない。
「――歓迎会を開こう。俺の、竜の巣の仲間たちに会わせようと思ってな」
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想定通り、部屋は広い円形をしており、会議室と管制室が一体化したようであった。
白を基調とした内装であり、これまでの洋風メインとは異なる完全モダン、やや近未来的ですらあった。
半径100mほどはあるだろうか、部屋の反対側の端は遠くてはっきりと様子が視認できない。おそらく中心にあたる場所には、鉄の柱のような物体が天までそびえ立っており、先端がどこなのか不明だ。
天井自体も遥か高く、ガラス張りのその蓋は継ぎ目一つないほど透き通っており、天に散らばる星々が顔を覗かせているのがマユイに安心感を与える。
ここまでは想定通り。想定通りなのか?想定通りとしておこう。
「羅衣よ、私はキミを信用し、キミの指示には最大限従うつもりである」
そう、重く低い声で堂々と話すは、魔術師のような緋色の全身ローブを纏う男であった。目元はフード部分に隠されており、口周りくらいしか素肌は見えない。竜の巣は、顔を晒したくない照れ屋集団だったりするのだろうか。
それはともかく。
「だが羅衣よ、私は今、キミの判断に疑問を抱いている。力無き一般人を相談も無しに連れてきた挙句、正式な仲間として加えるつもりとは。いくらキミが『頭』とはいえ到底容認しかねる」
「これのどこが歓迎会よ……」
想定外というよりもはや騙されたと言いたいが、リュウジン・ライのお仲間は手放しの歓迎ムードというわけでは無いようだ。考えてみれば当然と言えば当然、だが、まさか独断専行による強制連行だったとは思うまい。
チラリと周囲を見渡す。
今しがた通ってきた入口からほど近い位置にある、真っ白な円卓。付近には可動式の機械チックなスクリーンが幾つか無造作に置かれており、ミーティング会場という印象がますます強まる。
そして、この円卓を中心に、マユイたち3人の他に4人が集まっている。
「――まったく……重要事項は兎毬だけでなく私にも相談しろと、日頃からあれほど……」
一人は、先ほどの発言者でもある赤ローブ男、『竜の炎』緋凍羅蓮。
「――でもさぁ、どのみち羅蓮は反対したろぉ?どぉせ、さ。まぁ今回ばかりは、僕も羅蓮寄りかなぁ、今んとこね」
一人は、両手を頭の後ろで組み、大胆にも円卓の上で寝転がっている青髪の青年、『竜の爪』最下零次。
「――いいじゃありませんの、羅衣が考えも無しに突飛なことをしでかすだなんて、有り得ませんの。……有り得ませんわよね……?」
一人は、おっとりと暢気そうに間延びした声で話すお姉さんタイプの長髪女性、『竜の鱗』加々宮純玲。
「――ボ、ボクは……あまり良いとは思わない、かな。ら、羅衣さんだって、理由があってのことだとは思う、よ。けど、だからって、こんな女の子を危険な目に遭わせるのは、ダメだと……思います」
一人は、見るからに気弱そうで覇気のない、左側だけ髪が掻き揚げられた同年代の男の子、『竜の翼』夜凪蒼雅。
竜の一部を冠する役職が与えられた、『竜の巣』の幹部たち。彼ら彼女らは、この国を襲う一般人外やテロ組織の群れを掃討し続ける、一騎当千の戦士。その場に無知無力なネズミまがいの一般人が紛れ込んだら摘まみだすに決まっている。
とはいえ、一応組織のトップが直々に連れてきた人物に対する反応として、もう少しもてなしムードを作ろうという気概を見せてもらいたいものだ。などと言うと流石に傲慢がすぎるが、3/4が反対派とは、バランスが悪いではないか。しかも、残る一人も自分の言葉に不安を感じているようだし。
せめて、あと2人ほど友好的な人がいれば――
「――よぉ~っす!呼ばれて来た……ゲホっ!ゴホっ!」
「――ほらほら、無駄に叫ばないの!おにぃ!本当はまだ安静にしなきゃなんだよ~!」
「う~るせぇな~スズは。オレ様っちはカンペキ元気だってぇの」
「そ~んなテッキトーだから大怪我やらかすの!バカおにぃ!」
入口から、2人の騒がしい男女が入ってくる。片方は、桃色の髪の、高校生くらいの溌溂とした女の子。もう一方は、金髪にサングラスをかけ、鈍い赤系の革ジャンといういかにもヤンチャそうな長身の男。
会話内での呼び方から、兄妹と推定される。
「起きたか、一颯。調子はどうだ?」
「おう!ど~にか無事だぜっ!そ~いや、オレっちがしくった後始末は……」
「ああ、俺が対応した。かなり特殊で危険な相手だったからな。生け捕りにしたのと、戦利品を持ってきた」
「戦利品だぁ?」
リュウジン・ライが提示した”戦利品”、すなわちマユイに目を向け、じーっと見つめる金髪男。2、3秒程度気まずい空気が流れて――
「か、か、かっわいいぃぃ~~!!」
ピンク髪の女子が、大興奮の声を上げながら満面の笑みを浮かべ、踊るようにマユイの前へと飛び出してくる。呆気にとられポカンとしている隙に、両手を握られ、ブンブンと握手をされるがままの状態となる。
「ね~ね~!あんた、名前は!?もしかして、羅衣が連れてきた新人!?よろしくよろしく~!!」
「ちょ、わか、分かったから、いったん腕、止めて。振り回され過ぎて痛い痛い」
「わわわ!ごめんね~!同世代の女の子って久々でさ~、ちょっと興奮しちゃったなぁ。反省しました~、マル!」
慌てて手を離し、謝りながら警察の敬礼のようなポーズを取る、ピンクの少女。コロコロと声の調子や表情が変化し、見飽きない。倉橋さんを思い起こさせる、底なしの明るさが彼女からも感じられる。感じられるというより、本人がオーラのように陽の空気を振りまいている。
「オイオイ、こ~いうのは自ら名乗るモンだぜ、スズ。アニキが手本ってのを見せてやらぁ」
豪快に笑う金髪が、口元をニィっと吊り上げ、親指を立ててポーズを取りながら高らかに宣言する。
「オレ様っちは!『竜の肢』羽間一颯!今後ともよしなにな、嬢ちゃん!」
「オ~ケ~理解した!あたしは、『竜の心臓』羽間涼風!このバカの妹だよ。気軽にスズって呼んでほしいなっ!」
声も、表情も、しぐさも、全てが一つ一つ忙しなく騒がしく変化しており、非常に賑やかな兄妹だ。この2人が現れてから、他のメンバーも心なしか顔が緩んでいるように感じる。リュウジン・ライは相変わらずだが。
「さて、来れる奴は全員揃ったんだ、改めて紹介しよう。『レボルシオ』の斥候をとっ捕まえた時に拾った新人だ。自己紹介を頼む」
「ええまあ、成り行きだけどね。言っとくけど、私は何も出来ないから」
「羅衣よ、私は不信感が強まったぞ。本人がこう言っているが」
緋凍羅蓮がリュウジン・ライを詰める。わざわざ言う必要があったか、自分でも余計だったかとは思う。だが実際、マユイに何ができるというのだろう。ただ透明になれる、というだけだ。しかも自覚していない。
「まあ待てよ羅蓮。とりあえず、名前くらい聞いておけ」
「……お名前を聞かせてくれないか、お嬢さんよ」
「ユキシロ・マユイ。雪に『代償』の代、『まこと』に『むすぶ』で――」
「「「…………っ」」」
言い終わらぬうちに、数名が明確に反応を見せる。驚愕、その感情の色を見せたのは、緋凍羅蓮、最下零次、そして夜凪蒼雅の3者だ。
最下零次に至っては、「マジか」という声まで漏らしている。
「あの、私の名前が、何か?」
「おぉい羅衣、これって、コイツって、本当に”そういうこと”なのかぁ?」
マユイの疑問は華麗にスルーされる。リュウジン・ライもそうだったが、他の連中も、詳細を説明してくれる気はないらしい。
羽間兄妹なら教えてくれるかも、と思ったが、どうやら2人ともピンと来ていないようで、揃って頭上にクエスチョンマークが浮かんで見えるよう。
「さあな。だが、俺が目を付けた理由は分かっただろう?」
「それに関しては理解した。だが羅衣よ、そのお嬢さん……真結嬢は、今日この日まで一般の人間として表社会で生きてきたのだろう?それを突如、この狂乱の世界で戦わせるのは不可能ではないか?」
「少なくとも、潜在能力は十分すぎる。――俺は、潜伏していたコイツを発見できなかった」
「「「……は」」」
竜のその一言、そこにどれだけの重みがあるのか、出会ったばかりのマユイには理解できない。だが、彼の仲間にとっては確かな意味があったのだろう。
それぞれが、マユイに目を向ける。思わず、といった様子だ。その目の全てが、己の理解を超越した存在を見る目だ。
「……な、信じられないの……ありえる、の?油断とか」
「ば、バカ言うんじゃないよ、加々宮さん……。だって、あ、あの羅衣だよ」
ざわつく中、羽間一颯と涼風は、どこか嬉しそうな誇らしそうな顔をなぜか浮かべている。
「なるほど、羅衣よ、お前が真結嬢に求める役割はおおよそ理解した。真結嬢も、磨けば卓越した能力を発揮することだろう。だが」
緋色のローブが、マユイを見下ろす。2m近くありそうな身長、それだけでなく、本人の纏う威圧感に気圧される。自信と覚悟、それが垣間見える。マユイにはまだない、それらが。
「真結嬢よ、キミを軽んじるつもりは一切無いと言っておこう。だが、キミには確固たる覚悟、この悲しく苦しい世界で生きていく気概は無いのではないか?」
その言葉は、事実だった。
ただ流されてここまで来た、それだけの一般人でしかない。何か彼らが驚くに値するモノを持っているのだとしても、だ。
だが、それでも。
「――そうだね、その通り。私には何の覚悟も信念も無い」
「…………」
「身を挺してこの国を、誰かを守りたい、なんて自己犠牲の精神は持てない」
「それは当然だ。誰も彼も、己自身より優先するものなど持ち合わせてはいない。キミは普通だ」
「それは違う。私は普通じゃない」
思いを、吐き出す。心の奥底に澱のように沈殿した感情を、言葉にして掃きだす。
「普通でも、異常ですらない――無。虚無。生も死も、怖くなければ嬉しくもない。それが心地よくて、同時に気持ち悪かった」
自らこれほど口を動かすのは、初めてかもしれない。それも、初対面の他人と。
「私に何が出来るかなんて、知らない。興味もない。私自身も知らない才能なんてのがあるなら、好きに利用すればいい。私も、あなたたちを利用させてもらうから」
――変わりたい
生まれて初めて抱いた気持ち。
過去と今の自分を否定するわけではない。だが、現実を捨て、ありもしない空想に逃避していたことを、肯定する気も無い。
降って湧いた、空想に酷似した未知のセカイ。そこに飛び込むことは、逃避の一種でしかないのかもしれない。しれないが、それでも。
「――私はここで、"私"を見つけたい。まだこのセカイにいない、本当の私を」
「……そうか。だが、いや……」
緋凍羅蓮は、明らかに困惑する。動揺ですらあったかもしれない。
自信も、覚悟も無く、そればかりか『自分自身』すら持たないと堂々と宣言されたのだ。彼からすれば、意味が分からないだろう。
「迷うなら、お前自身で見極めてみろ、羅蓮」
リュウジン・ライが両者の間に割り込み、仲裁する。いやむしろ、話を明後日の方向に持っていこうとしてはいないか。
その予感は、正しかった。
「入団テストをしようじゃないか。――内容は、かくれんぼ大会だ」




