1-14 『強引ゴーイング』
「零次、ボケ~っとしてんじゃねぇ!そっち行ったぜ~!」
「まぁじ?全然わっかんねぇんだけどぉ」
「マジ!多分!」
「おバカ2名、真面目にやってくださいの!」
「「やってらぁ」!」
喧しい声が四方八方、立体的に飛び交う。まるで喧嘩しているようにしか見えないが、互いに竜躯囚の絆で結ばれた仲間だ。語気が強まっているだけで、罵っているという訳ではない。
「――――」
「あぁ悪ぃ、脱落だわ僕」
「大丈夫ですの。最初から戦力として数えていませんでしたわ」
「異常式ばっかに頼ってないでさ~、もっかい鍛え直してこい」
「脳筋バカには言われたかないなぁ」
「あぁ?」
「お?」
前言撤回、敵意丸出し。互いに歯を剥き出しにしながら威圧し合っている野生動物のような様子からは、とても味方同士の会話とは思えない。こやつらは、個々が一騎当千の実力者であるが故、チームワークという単語が辞書に無いのかもしれない。
ぎゃいぎゃいと言い合いながら、灰色の長髪を揺らす青年が階段を降りていく。その姿は半ばでふっと蝋燭の火のように消え去るが、消滅したわけでは無い。
「あぁ疲れたぁ。羅蓮、膝枕してくれよぉ」
「零次よ、横になりたいなら寝台を用意しよう」
「お、まじぃ?」
「炎を固めたものだが、それで良いか?」
「僕死んじゃうってぇ」
言いながら零次は既に、面にスライディング寝そべりしている。もはや見慣れた光景に、基本真面目枠兼ツッコミ側の羅蓮も見向きすらせずに妄言で対応している。
恋人と接するような甘い要求を巡って戯れる成人男性たちの声が聞こえてくるのは、十数メートルほど離れた野外からだ。壁や窓ガラスなどに遮られていないため、明瞭に見えるし、聞こえる。
「脱落者同士、仲良くしよぉじゃんかぁ」
「零次よ、私はキミをやる気にさせることだけは未来永劫不可能だと思っている」
「酷くないかぁい?」
「馬の耳に念仏とは思うが、零次よ、大人しく観戦して学びを得たまえ」
観戦という言葉の通り、今行われているのは戦闘だ。
正確には、対戦形式の訓練といったところか。マユイ1人 VS 実力者4名という、入団テストのかくれんぼを彷彿とさせる多対一のイジメ構図だが、現状優勢なのはマユイである。孤軍奮闘、既に敵の半数を脱落させているのだ。
ルールは、小学校の体育で経験したことのある人も多そうな、いわゆる『タグ取り鬼ごっこ』に近い。ズボンの腰の部分や服のポケットなど、衣服の一部からひも状の布を垂らし、それを引き抜かれた者は脱落という内容である。
今回は、マユイが行動しながら隠密する練習であるため、マップの隅でじっと隠れるような行為を防ぐために、制限時間をオーバーしたらマユイの負けということになっている。
舞台となっているのは、10層建ての巨大な立体駐車場。1層当たりの面積もサッカーコートほどの広さを誇っており、まばらに停められた車が視認を妨害する要素かつ投擲物となっている。
これも入団テストの時と同様、兎毬のアノマラム《界既月蝕》にて創り出された亜空間。それ故か、広大な草原の中に立派な駐車場が厳つく刺さっているという、なんとも奇怪な光景になっている。
マユイが自身の能力を磨き始めてから、1か月ほど経過した。その成果発表会も兼ねて、竜躯囚メンバーの手が空いている者で実戦形式の訓練を行うという運びになった。らしい。今日、始まる直前までマユイはそんな話は一切聞いていない。
それはさておき、そういった経緯で隠密能力を現在進行形フル稼働させているというワケである。
「しゃ~ねぇ、純玲!一斉射撃だっ!」
「了解しました、の!」
間延びした掛け声が響くとともに、周囲一帯、まばらな位置に無数の”鏡”が突如として出現する。大小様々の、金色に鈍く輝く額縁に囲まれた鏡面が、エネルギーを溜めているかの如く凝縮された光を放ち放ち始め。
「発射ですの!」
鏡の群れが、文字通り空気を支配する。ある鏡は、指向性を持った爆発の如く暴風を吹き出し、またある鏡は、某掃除機を想起させる吸引力で周囲のモノを空気ごと無差別に引き寄せる。
同じことが、全フロア全域で起こっているのだろう、凄まじい轟音が鼓膜を乱暴に叩きまくる。
その全てが、マユイには届かない。
「よっほっと」
軽やかなステップを無人のフロアで披露し、空間を切り刻み荒れ狂う烈風から逃れることを試みる。安全地帯など前後左右上下の何処にも存在せず、どこへ移動したとて魔鏡の間合いだ。
もっとも、マユイにとっては回避行動自体が不要だが。
マユイの真横で光を放つ鏡は、正面にあるものすべてを吹き飛ばすブロワータイプ。無音の大爆発が発生したかの如く空気がたちどころに激しく膨張し、勢いよく放たれたそれが駐車されていた車を彼方まで連れ去る。
哀れなその車と鏡の中間点に居たマユイは、しかし事も無げに涼しげに、体勢を崩すことすらなく颯爽と走り抜ける。
自動車よりもどっしりとした強靭な足腰で耐えたわけではなく、ただ影響を無効化したに過ぎない。
1か月の修練をこなした最大の成果として、移動しながらの隠密と攻撃の無効化を習得した。とはいえまだ不完全極まりなく、使いこなせているとは到底言い難いレベルではある。
集中が少しでも途切れれば丸見えになるし、物理攻撃やアノマラムからの影響から逃れようとすれば、実際に身体を動かして回避行動を取らなければならない。そうやって「攻撃を避ける」という感覚を強く意識しなければ、どうしても発動できないのだ。
そして、マユイを指導してきた羽間一颯も、その欠陥を当然知っている。
「一颯、どうですの?」
「――絞れたぜ!移動だ、掴まりな~」
やり取りが聞こえて一秒と経たず、一颯と純玲のペアがマユイと同じフロアに姿を現す。恐ろしく直感の鋭い一颯には、攻撃回避の際に生じる僅かな乱れを察知される。今しがた行われた大規模攻撃は、マユイの居場所を炙り出すことが目的だったということだ。
位置を特定されることも織り込み済み、作戦の内なので問題なし。
時間内にタグを引っこ抜けなければ敗北する都合、どこかのタイミングでは一颯を捕捉する必要がある。今回の相手4人のうち、純玲と零次は身体能力自体はそこまでなので、あまり問題は無い。羅蓮は脅威でしかないが、どうにか開幕の隙を突くことに成功した。
基礎スペックの差の問題で、物理的にタグを掴ませてもらえない可能性がある一颯が、残る最大の壁だ。
一颯がマユイのタグを取りに来るそのタイミングこそが、確実に接近できる機会、ピンチにして最大のチャンスである。
つまり。
「今が好機ね」
走り踏みだした左足に力を込め、足から上体へと順に力をしなやかに伝え、方向転換、反転、バネの跳躍を見せる。
180度進行方向をいきなり変更する小技は一月前の廃ビルでもやったが、あの時はただ力任せの後ろっ飛びでしかなかった。それが今では流れるようなターンへと進化し、身体訓練の成果を改めて実感する。
筋力や持久力といった部分はそれほど重点的に鍛えたわけでは無いが、それでも自主的に軽く筋トレくらいはした。そのおかげかは知らないが、確実に身体が軽い。
一颯曰く、元より素質はあったとのことだ。それを活かせるだけの基礎能力が備わった今、人外相手にも多少は対抗できるようにはなっただろう。
一颯と純玲へと、最短経路、一直線のルートを走り出す。滅茶苦茶に吹き飛んで横転した自動車が散らばった空間を、縫うように切り裂いていく。
2人は周囲を見渡し、マユイを洗い出そうと試みている途中。純玲はともかく、一颯に気付かれるのは時間の問題だ。下手な小細工で遠回りなことをしている暇はない。
速攻を仕掛ける。
絶対に隠密を切らすことの無いよう細心の注意集中を払いながら、迅速に駆け寄り。
「ああっ」
純玲が暢気な悲鳴を漏らす。上着のポケットから垂らされていたタグを盗み取られたことに気付いたのだ。
彼女からすれば、まるで風に攫われたような、霞に溶けてしまったような感覚だろう。マユイは目の前で堂々と抜き取っただけだ。
だが。
「やられた」
失敗した。
本当は一颯を先に仕留めるつもりだった。だが、彼のタグを掴む寸前、その姿がふっとブレた。そしてあっという間にその場には純玲だけが残されたというワケだ。
咄嗟に切り替えて彼女のタグを引っこ抜くことができたのは不幸中の幸い。これで最低限、まだ勝負はできる。
「――――」
直前で気取られたか、あるいは誘い出されたか。どちらにせよ、避けられた以上どうしようもない。フィジカル特化の人外である一颯の移動速度は、人間の目では到底追い切れないのだから。
現にフロアを高速で移動しているのであろう、風を切る音が鼓膜を揺らしている。より正確な位置を把握されるのは時間の問題だ。マユイのタグへと伸ばす手を躱そうにも、無効化させるには、ほんの小さくでも良いから回避行動を実際に取らなければならない。タイミング良く一颯の手から逃れられるとは考え難い。
「仕方ないね」
思いついた策が最適解であるか否かは不明だが、少なくとも今はこうするべき、これが最善であると自分自身に言い聞かせるために、空に向けて意味の無い言葉を呟く。
呟いたなら、意味のある行動を起こせ。
素早く移動する。
盛大に転がり横向きになった自動車の一つ、そこを目指し転がり込んで、ひんやり冷たい金属の天井部分に己の背をピタリとくっつけながら、深く息を吐く。
息を吸う。息を吐く。息を大きく吸い、大きく吐いて――
「――な!?」
目が、合った。
真正面、数十メートルの距離、直線で結ばれた位置関係。互いの顔がはっきりと視認できるポジション。そういった空間的配置であったことは、前提でしかない。
困惑と衝撃をありありと浮かべて思わず動きを止めた『竜の肢』の姿が思いがけず露わになったのは、明確な理由がある。
マユイの目には、映し出されている。揺れる金髪が。よく鍛えられた筋肉質な身体が。光を反射する黒いガラスに遮られ、しかし情報を求めて目まぐるしく動くのが分かる眼球が。
それら全て、視認できている。
全く同じように、彼の、そして彼らの目にも映っているはずだ。真っ白な髪が。色んな意味で凹凸の乏しい貧相な肉体が。まっすぐ前を見据えていざ勝負に出んと覚悟を宿した鋭い目が。
それら全て、視認されている。
――今、マユイは透明でも何でもない。
自ら解除した。解除、という感覚はあまり無いが。自分が透明人間であるという意識への集中を放棄しただけだ。マユイ本人にとっては認識の匙加減でしかないため、周囲の反応からしか実感できない。
そういう意味では、一颯とばっちり目が合ったのは僥倖だったと言える。そのおかげで、ここからが最後の一勝負なのだと、両者、鮮明に理解できたのだから。
「来なよ、一颯」
マユイの声が聞こえたから、というわけでは無いだろうが、呼応するように革ジャンの軽薄そうな男が動き出す。そのスピードはやはり、只人の域を超越できないマユイには知覚することが許されない。せいぜい、初動を辛うじて捉えることができる程度だ。
それで、十分。
先ほど仕留めそこなった時と同じ、ノイズでも走ったかのように身体を構成する輪郭が端から順にズレてブレてバラバラに崩れ去り消えるような、行動を起こす上で必ず生じる初動のサイン。人間の限界を超えた速度が出せるとはいえ、トップスピードに達するには多少の時間は要する。故に、動体視力を鍛えまくったマユイであれば、初動だけなら捉えられる。
視覚情報を脳で処理すると同時に、ほとんど反射の速度で身体を動かす。マユイという意識が、外部から糸で操っているような精度速度で、正確に迅速に。
重心を右に寄せながら、再び透明になり、左へ横っ飛び。順序を間違えてはいけない。一颯がここへ到達するまでのごく限られた時間に、順番通りの工程を凝縮して詰め込む。
カンペキに出来ているのであれば、一颯にはマユイが右方向へ回避しようとしている風に見えている。はず。たぶん。どうにか。
僅かにでも右へ逸れてくれればいい。一颯が捕らえ損なったところを狙い撃つ。あまりにも杜撰で机上の空論な作戦ではあるが、基礎身体スペックに天地の差があるせいで、このくらいしか出来ることが無い。
一縷の希望を強引に見出し、左へ右へと反復横跳びの要領でステップを――
「――あ」
まるで世界がひび割れ、砕け散るかのような感覚に襲われる。身体のバランスを大きく崩し、心許ない足元がぐにゃりと歪んで宙に投げ出される錯覚。
否、錯覚ではない。
「――――」
再び、視線が交差する。目論み通り姿を見せた疾風のお調子者は、しかし予想外の行動に出た。
割れた世界、不安定という表現を超越した状態と成り果てた足場、解体工事現場を想起させるような砂埃と浮遊する無数のコンクリート片、加えて浮遊するマユイ。それらの現象を生み出した原因は、フロア全体の床が瞬きのうちに粉砕されたことにある。
はっきり視認できたわけでは無い。だが、常識的に考えて、床が自然と一斉に粉砕骨折する道理は無い。つまり、一颯が床をぶち割ったという非常識な回答が導き出されるわけだ。
仮に、タイミング良く攻撃の無効化に成功していたとしても、地に足付けられない状況であれば反撃のしようがない。空中を自由に移動できないマユイには成す術がないということだ。
瓦礫の群れと一緒に仲良く重力に引っ張られ、地面からの手招きに応じることしかできず。
「届、け――」
自由の利かない中、長くもない右足――それとついでに左手も精いっぱい伸ばして無様に足掻く。都合よくすぐ足元に大きめの瓦礫片が浮いていて、蹴りやすい面を向けてくれているか、なんて確認する余裕も無い。仮にそんな幸運があったとして、蹴ることが出来たとして、アニメや漫画のように浮遊物を足場に飛び上がれるわけもなく。
本当に、往生際の悪い無駄な抵抗でしかなかった。
「――よ~しよし、嬢ちゃんGET~!」
体勢を崩した拍子に、集中も乱れてしまったようだ。精度の低い状態だと一颯相手では丸見え同然、あっという間に捕獲されてしまう。
キザな笑みを浮かべ、姫抱きをする様子はまさに軽薄そのもの。ムカつきはするものの、対処不能な攻撃によるやや理不尽な負け方をしたことに対する八つ当たりという面もある。少なくとも、リュウジン・ライに対する嫌悪感とは全く異なる。
「本当、スッキリしない。勝った気がしないんだけど」
「勝った気って、ど~見てもオレ様っちの勝ちだろ」
「ん?勝利条件はタグでしょ?」
そう言いつつ、抱きかかえられているせいで額同士がくっつきそうな距離にある一颯の鼻先に、左手を突き出す。
そこには、布切れ――うっかりなお調子者の腰に先程までぶら下がっていたタグが握られていた。
「うぉいマジか~!?あっれ~、いつの間にだ?」
「たった今、あなたと話している最中」
一颯の狙いが、マユイを行動不能に陥らせ、その隙を突くことであることは明白だった。故に、布石という名の悪足掻きの策は講じていた。
空中で身動きが取れない中、全力で伸ばすという形で左手と右足を伸ばし、そこへ意識を無理やり向けた。マユイ自身は透明でなくなるが、手足の動きへの認識を鈍らせた。
体の一部だけを認識阻害状態にする。この1か月の間に習得した、微妙に使い道の無さげな応用だ。それを土壇場で利用することで、右足のポケットから垂れるタグの正確な位置を把握させず、左手で一颯のタグを抜き取る動作に気付かせない。
完全に、勝利を確信した一颯の油断に依存した卑怯な勝利だ。
「試合に勝って勝負に負けた気分ね」
「ハハッ!これぁ~一本取られたぜ!咄嗟によくやったもんだ」
「褒められたものじゃないでしょうに」
今回の自分の行動を顧みる。
真っ向勝負で勝機の見込めない羅蓮に、邪道な奇襲で強引に排除。
強力なアノマラムを使用する零次に、機を見計らって遅延に遅延を重ねた末の正面突破で強引に処理。
広範囲どころか全域に攻撃をばら撒ける純玲に、修練不足で成功率の低い回避技を何度も決めて強引に対処。
驚異的な第六感で潜伏を見破ってくる一颯に、ことごとく行動を潰された挙句、再現性の低い非実用的な手段で強引に対応。
対羅蓮はともかく、それ以外は行動の一つ一つがその場しのぎ。次善策どころか次々々々善策くらいの拙いものばかり。強引に次ぐ強引で無理やり突破したに過ぎない。
常に最善を講じて対処しようなどと考えるのは三流だが、出たとこ勝負しか出来ないのはマユイの悪い癖だ。学校に通い日常生活を送っていた時から認知していた、身に沁みついた習性とも言える。
たった1ヶ月では、性根は変わらない。あるいは、自ら変わらんとする闘魂が芽生えなかったと言うべきか。
「その場しのぎじゃ、いずれ限界が来る」
「それでいいんでね~の?」
一人勝手に反省会を開催していたマユイに、おちゃらけた普段の調子で、しかし茶化すわけでなく、キョトンとした顔で軽い言葉を軽く口にする。
何言ってんだ、という呆れすら読み取れる。
「オレ様っちだって、いつもその場しのぎばっかさ。もうこりゃど~しようもね~!って場面を強引ゴーイングしたことなんか、何度あったか数えきれねぇって」
「強引ゴーイングて」
「オレっちだけじゃねぇ、他の奴らだってそうさ。羅衣なんて、作戦らしい作戦だとかいちいち立ててねぇよ、絶対。いや、アイツの場合は必要がないだけか」
そんな訳ないだろうと思うが、多少の説得力はある。なにせ目の前の男は、マユイ捕獲のために床を腕力で破壊するという強引の極みのような手段を取った実績がある。一理とまでは言わないが、半理ほどはあるだろうか。
「なぁ嬢ちゃん。嬢ちゃんはフィジカルを頭で補ってっけど、なにも朝から晩までずっと頭回して思いつめなくたっていいじゃね~か」
「別にそんなことは……んーまあ、最近はちょっとそういうとこあるかも」
詳細不明な特殊能力があるとはいえ、それ込みでも平凡な一般人が、人外魔境のセカイでやっていけるのか。未だ想像がついていない。実戦を一度経験してしまえば実感できるのだろうが、もし力量不足なら、死という形で思い知らされることとなる。
慎重を期すあまり、自身の力を過小評価気味になっていると自覚しつつある。
客観的に考えれば、人外の中でも飛びぬけて上澄みである竜躯囚のメンバー相手にそこそこやれているという点で、既に実力はあるのだろう。
適切な比較対象がいないせいで、具体的に分からない。恵まれた環境に囲まれている弊害だ。
「オレ様っちは、あんまし考えねぇタチだから言えたモンじゃね~けどさ。過ぎたるはなお及ばざるが如しってヤツよ、ネガティブに考えすぎても何も始まんねぇ!」
「ちょ、腕外さないで、落ちそう」
歯を見せて笑いながら親指を立てる、見慣れたポーズ。やるのはいいが、お姫様抱っこをした状態ではやめてほしい。
とはいえ、言いたいことは伝わったし、言っていることはもっともだと思い直す。
綿密精密な技巧でも、強引ゴーイングな臨機応変でも、なんでもいい。自分のスタイルを認める。それが、マユイに足りていないことなのだろう。
こんなことを学ぶのに一ヶ月も要するとは、やはり未熟だな。なんて思ってしまうのも、少しずつ減らしていかねば。
「取り敢えず、だ」
言葉を切り、顔を遠くへ向ける一颯。釣られて見た方向、同じ高度に脱落組の3人が立って――寝転んでいる者もいるが、こちらの様子を窺っているようだ。
体の向きのせいで空ばかり見えるのと、一切の揺れや衝撃を感じなかったのが理由で気づくのが遅れたが、いつの間にか地面に着地していた。よく考えればとっくに着陸していたはずだな。
「オレ様っち含め、教官からの評価タイムと行こうぜ~!反省会は、独りでやるもんじゃね~しな!」
ゆっくりと、腕の中から丁重に降ろされる。足場を奪われる感覚を味わったせいか、自分の足で踏みしめた大地へ安心感と重厚さをなんとなくだが感じる。
そんなどうでもいい感想を放り投げつつ、合流するため歩き出した。
――その夜、竜の巣に紛れ込んだ一般人が、”合格”の二文字と”初任務”の三文字を言い渡された。
7月7日、七夕の夜の出来事であった。




