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ダブル「Cace4追跡」

 次の日、僕は学校に着くとすぐに鳴海愛を探した。

 彼女はいつも通り、僕よりも早く学校にいて、席に座って『多重世界』なんて名前の本を読んでいた。

 彼女は僕に気付くと声をかけて来た。

「おはよう」

「ああ、おはよう」

 鳴海は僕のことを『それで用件は何だ?』といった感じで、本から目を覗かせるように見た。僕はなぜだか慌ててしまってすぐに返事を返した。

「事件についてまた調べようと思って……」

「昼休みに渚と会うから、君も来るといい」

 そう言って鳴海は本に目を戻した。

 気付くと周りの人たちが僕らのことをちらちら見ていた。僕が鳴海愛と話しているのが珍しいのか、鳴海愛がクラスの人としゃべっているのが珍しいのか、どちらかだと思う。ちょっと前までは僕もそうだったからわかる。

 僕は何食わぬ顔をしながら自分の席に着いた。

 前だったら僕も鳴海愛がクラスの人としゃべっているのを物珍しく見てしまったかもしれない。でも、今は違う。鳴海愛のイメージは僕の中でだいぶ変わっていた。

 昼休みになり、僕は鳴海に連れられて屋上に連れて行かれた。

 屋上は昼休みになると、ここで昼食を取ろうとする生徒の姿をぼちぼち見かける。その中の一人に椎凪渚を見つけた。

 床に座っている渚はニコニコしながら僕らを手招きしている。僕はそれに答えて軽く右手を上げた。

 それに答えてか、渚はより一層の笑みを浮かべた。

「春日先輩こんにちわ」

「こんにちわ」

 僕は相手の元気の良さに少し押されぎみにあいさつを返した。

 渚はすでに一人でお弁当を食べていた。そのお弁当が手作りのお弁当で見栄えも綺麗だったので僕は聞いて見た。

「これ、渚が作ったの?」

「はいそうですよぉ、あたし料理得意なんです」

「ふ〜ん、いいねぇ。僕はこれだよ」

 と言って僕は地面に腰を下ろしながらコンビニの袋からおにぎりを二つとペットボトルに入った清涼飲料水を取り出して少し苦笑いをした。

 それを見た渚が笑みを浮かべる。

「じゃあ明日、あたしが先輩のお弁当作って来てあげましょうか?」

 僕は笑顔を浮かべて快くその申し出を受け取った。

「ありがとう、楽しみにしてるよ」

 渚はうれしそうな顔して腕を捲るようなポーズをした。

「任せて下さい、腕によりをかけてたくさん作って来ますからね」

 僕は笑いながら鳴海のことをチラッと見て言った。

「あれ、鳴海さんはお弁当食べないの?」

「昼は食べない」

 スタイルとかを気にして食べないのかなと思ったけど、本当はどうなんだろう?

「どうして食べないの?」

「食べる理由がないから」

「はぁ?」

 僕は思わず首を傾げてしまった。『食べる理由がない』、お腹が空いてないってことなのか?

 僕らの会話を聞いていた渚が、口にいっぱいに詰めんでいたご飯をごくんと一気に飲み込んでから、横から口を出してきた。

「愛ちゃん、ダイエットでもしてるの?」

「いや」

 それもそうだ、鳴海の身長は僕と同じかちょっと下くらいで足がスラっとしていてやけに長い、別にこれならダイエットしなくていいと思う。

 渚は口に手を当ててもぐもぐしながら、何かをしゃべろうとした。

「愛……どう……うぐぅ……げほっ」

 食べものを喉に詰らせた渚の背中を鳴海が擦り、僕は未開封だったペットボトルの蓋を開けて彼女に差し出した。

 渚はそれを受け取ると、五〇〇ミリリットルを一気に飲み干して、『はぁはぁ』と肩で息をした。そして一言。

「死ぬかと思ったぁ〜」

 その光景を見た僕は思わず笑ってしまって、横を見ると鳴海が真っ赤な顔をして口に手を当てて軽く咳き込んでいるのが見えた。無理して笑いを堪えてるように僕には見える。

 僕はこの時思った。鳴海愛はいつも無理してるんじゃないか? って。ワザと人を寄せ付けないようにしたり、何があっても冷静で、クールなフリをしているように今なら思える。

 そんなことを考えていて、回りのことなどすっかり目に入ってなかった時に、横から声がかかって僕は少しドキッとした。

「春日先輩、聞いてましたか?」

「えっ、何を?」

 どうやら、僕が考え事をしてた時に渚が何かをしゃべったらしい。

「あたし、〈クラブ・ダブルB〉の噂を流したの誰かなと思って調べてみたんだけど……」

「私も誰だか何度も調べてみたが、毎回一人の女子生徒に行き着いた」

「じゃあ、その生徒に直接聞いてみたら?」

 僕の発言を聞いた二人の表情は何とも言えない渋い表情だった。

「どうしたの二人とも?」

 鳴海はいつも以上に機嫌の悪そうな顔して言った。

「彼女はもうすでに死んでいる」

 二人が調べたって言うんだから彼女が噂を広めた張本人であるとは思うけど、彼女が噂を最初に流した人物であるとは断定はできない。

 結局何も掴めないのかと思った時、渚が手を上げた。

「はい、は〜い。え〜と、その女子生徒の名前は藤宮彩、三年生で最近思いつめた表情をよくしていて、授業中に保健室に行くことが多かったらしいですよ、それである日突然別人のように元気になってそれから〈クラブ・ダブルB〉の噂を流すようになったみたいです」

 僕はピンと来た。 

「つまり、藤宮彩は〈クラブ・ダブルB〉によって悩みを解消されたって訳だね。それと、保健室によく行ってた言ってたよね? この事件で最初に消えたのは保健室の水鏡紫影先生だ!」

 僕が声を張り上げると鳴海愛は不適な笑みを浮かべた。

「そう、それに水鏡紫影はまだ死んでもいないし可笑しくなってもいない」

 この言葉に渚が付け足した。

「だから、水鏡先生は警察の取り調べを何度も受けているらしいですよ」

 生徒が多く姿を消して死亡したこの事件だが、最初の生徒が消える前に姿を消した学校関係者がいた。その人物こそが、事件ではじめに失踪した人物――水鏡紫影先生。

 水鏡紫影は保健室の先生で、失踪したのちに帰ってきた。やはり、この先生の記憶もあやふやで事件について何も覚えていないらしかった。

 僕の中で事件の糸口が見えてきた。藤宮彩と水鏡紫影先生は〈クラブ・ダブルB〉と何らかの形で関わったに違いない、そして、水鏡紫影先生は今回の事件の鍵を握っているに違いないと。

 渚はお弁当箱のフタを閉めてバッグの中に放り込むと、勢いよく立ち上がった。

「じゃあ、あたし水鏡先生について詳しく調べてきますね!」

 そう言って渚は元気に走って行った。

 渚の姿が見えなくなった所で鳴海が遠い目をしてぼそりと呟いた。

「……強いな渚は」

「どういうこと?」

「渚の友達は二人居なくなった。一人はもうすでに死んでいる、もう一人はこないだ帰って来たがいつ可笑しくなるとも限らない」

「…………」

 僕は言葉がみつからなくて……。なんだかみんな『フリ』をしてるだけなんだと思った。

「渚は人前では元気なフリをしているが、私だけの前だと大声を出して泣くんだ。渚の悩みや悲しさが痛いほど私の胸に突き刺さる」

 鳴海はすごく哀しそうな顔をしていた。

 僕は何も言えず、鳴海の横顔をただずっと見つめいた。


 昼休みが終わり、いつものように五時間目が終わり、六時間目は先生たちの臨時の職員会議とかで自習になった。そして、何時ものように学校が終わった。

 帰りに先生が明日からしばらくの間学校が休みになることを告げ、生徒に早く帰るように促した。臨時の職員会議で急遽決まったらしいけど、なぜ学校が休みになるのかまでは説明はなかった。きっと事件が絡んでいるに違いないと僕は思わずにいられなかった。

 今まで学校は消えた生徒たちとの関係を否定していた。たまたま学校の生徒が居なくなっただけで学校は無関係だと、だから大騒ぎになった後でも学校の授業は普通どおりに行われていた。でも、今回は何かがあったに違いない。

 教室を出て行く生徒たちの顔はみんな不安で押し潰されそうな表情をしている。

 そんなクラスメートの表情を見ていると、鳴海が今まで僕が見た中で一番不機嫌そうで恐い顔をして僕に近づいて来た。

 鳴海は僕の瞳を睨みながら、重たそうな口をゆっくりと開いた。

「……大変なことになったかもしれない」

「どうしたの?」

「渚のケータイに連絡がつかない」

 普段の状況だったら、電源切ってるとか電波の届かない所にいるだけってことでそんなに気にもしないけど、今は状況が状況だけに不安が積もる。

 鳴海が重たそうに口を開いた。

「それにもう一つ」

「…………」

 僕は思わず唾を飲み込んだ。

「これは職員室を盗聴してわかったんだが」

「盗聴!?」

 声を張り上げてしまった僕に鳴海の激が飛ぶ。

「話を最後まで聞け!」

「う、うん」

「六時間目の職員会議を盗聴したんだが、どうやら水鏡紫影は被害者兼重要参考人から容疑者に変わったらしい。しかも、水鏡の行方が五時間目からわからない、そのため警察が血眼になって彼女を捜索しているみたいだ」

 六時間目に鳴海を見た時、すごく厳しい表情をしてイヤホンを付けて音楽を聴いていると思ったら、まさかあれが盗聴をしていた何て夢にも思わなかった。それより何時の間に職員室なんかに盗聴器なんて仕掛けたんだろう?

「とにかく、渚の教室に行ってみよう」

 と僕が提案し、僕らは急いで渚の教室に足を運んだ。

 渚の教室に着くと数人の女子生徒が深刻そうな顔をして話していた。その生徒たちは教室に入った僕らをいっせいに見た。

 そして、一人の女子生徒が僕の顔を見て言った。

「渚の知り合いの先輩ですよね?」

 僕は思い出した、確かこの前にこの教室に来た時、渚と話していた友達だ。

「そうだけど」

 僕がそう言うとその子は酷く不安そうな顔をして言った。

「渚が五時間目から居なくなっちゃって……」

 その言葉を聞いた鳴海が間入れず大声で叫んだ。

「行くぞ涼!」

 この時の鳴海は僕の見た中で一番感情的だった。

 足早に教室を出て行く鳴海を僕は追いかけるようにして教室を後にした。

 僕らは取り合えず、事件の鍵を握る水鏡紫影先生の自宅のマンションに行くことにした。だけど判り切っていたことだけど、水鏡先生は自宅には居なかった。

 あきらめて帰ろうとした僕らをある男が呼び止めた。

「君たちちょっと話があるんだが」

 男の風貌はスーツにネクタイの中年で少し疲れたような顔をしていたが、その瞳は獣が獲物を見据えるような鋭い目をしていた。

 それに負けないぐらいの目で鳴海は男を見て言った。

「何者だ?」

 男はそう言われるとスーツの内ポケットから警察手帳を出し僕らに見せ付けた。

「君たち水鏡紫影の居所の心当たりはないかい?」

「無い」

 鳴海にそう言われた刑事は頭をポリポリとワザとらしく掻いた。

「そうか……。でも、事件の事を調べているなら『子供の出る幕じゃない』」

 と言ってニカっと口元が嫌な笑いを浮かべた。

 鳴海は何も言わずに刑事の横を『擦り』抜けて行った。それを見た僕は刑事と目線をワザと合わせないようにして鳴海の後を追った。

 鳴海の表情はどんどん不機嫌さを増していき、マンションから出て僕に話しかけた時の表情を見た僕は彼女に殺されるんじゃないかと思ったほどだった。

「涼にはこれから学校に行って欲しい、全てはあそこで起こっている。私はこれから調べる事ができたから後は頼んだ」

 そう言って鳴海は僕の返事を待つ前に走ってどこかに行ってしまった。

 行方不明になった生徒たちはみな、学校の中で行方不明になったと言われている。だから僕は思うんだ、今回の事件は学校を中心に蠢いているんじゃないかって。きっと、あそこに何かがある。

 残された僕は鳴海に言われた通りに学校に行くことにした。


 学校に着いた時にはもう夜の七時くらいで、いつもより早く校門は閉められて鍵が掛けられていた。

 生徒も教師も今日は早く帰宅させられて、学校には人の気配がなかった。

 僕は辺りに人が居ない事いちよう確認して正門をよじ登ろうとした。だけど、運が悪かったのか僕は後ろから『おい!』と声をかけられてしまった。

 僕は驚き後ろを見ると、あの時の刑事が立っていた。

 僕は完全にしまったと思った。

「何してるんだ、まさか学校に忍び込む気じゃないだろうな?」

「…………」

 僕は何も言わなかった。こんな状況で言い訳しても無駄だと思った。

「家まで送ってやるから、こっち来い」

 僕は刑事に連れられるままに車の助手席に乗せられ、無理やり自宅まで送り届けて貰った。

 玄関で僕と刑事を出迎えた母親は驚いた顔をした。当たり前だ、息子が刑事に家まで送って貰うなんて、何かあったと思うのが当然だから。

 僕が何も言わずにいると、刑事が母親に向かって僕がこれ以上事件に首を突っ込まないようにと注意をして帰って行った。

 僕はその後、母親に父親の前まで連れて行かれて二人にいろいろと注意された。

 母親は頼むから危険なことはしないでと泣き落としをして、父親にはこっ酷く叱られた。そして、僕は学校がはじまるまでの間自宅から一歩も出ちゃいけないと自宅謹慎命令を出された。

 僕はそんなことに従うつもりなんて微塵もなかった。当たり前だ、僕にはしなくちゃいけないことがある。

 深夜になり両親が寝静まったのを見計らって僕は家から抜け出すことを決意した。これから僕は学校に行く。

 自分の部屋から出て、音を立てないように階段を下りて、玄関のドアをゆっくりと開けて外に出た。

 音をなるべく立てないように玄関の鍵を掛け終えた僕は走り学校に急いで向かった。

 静かな闇の中を僕は走って学校に向かっていた。

 深夜に学校に侵入して僕は何を調べようとしているのか、自分でもわからない。けれど、行かなきゃいけない。

 僕は何かに呼ばれている。

 学校についた僕は今度はフェンスを登って学校内に侵入した。

 今度は運が良かったのか誰にも見つからずに学校に侵入することができた。だけど、問題はこれから校舎内にどうやって入るかだった。

 どこかから校舎内に入ることができないかなと校舎の周りを歩いている僕の目にある人物の人影が飛び込んで来た。

 ――水鏡紫影先生だ!

 僕は水鏡先生に気付かれないようにこっそりと後を追った。すると、校舎の裏側に辿り着いた。

 僕の心臓が激しく脈打つ。

 水鏡先生は立ち止まり誰かを待っているようだった。そして、すぐに二つの人影がまるで闇の中から這い出したように水鏡先生の前に現れた。

 二つの影は同じ形をしていて、徐々に月明かりに照らされて色が付いていく。

 僕は相手に見つからないように物影から目を凝らして三人を見た。

 水鏡先生といる二人の人物は同じ格好をしていて、そして、異様だった。あのファントム・ローズといい勝負かもしれない。

 真上から見ると、つばがひし形をした大きな帽子を被り、暗がりでよくわからないけど恐らく色は白とクールブラウンを基調とした質素なドレス姿で首には鎖が巻き付けられ、手には銀色の金属の棒の先端に大きなリングが付いている杖のような物を持っている。そして、何よりも僕の目を引いたのは、目の部分に包帯のようにグルグル巻かれた布だった。

 水鏡先生が謎の人物たちに何かを話しているけど、何を言っているのか良く聞き取れない。

「……捜査…女に…捕まるのも…だろう」

 やっぱり何を言ってるのかわからなかったけど、水鏡先生が謎の人物の名前をはっきりこう呼んだのはわかった。

「ミラーズ」

 僕はその言葉を聞いた瞬間には身体が動いていて、もう三人の人物の前に飛び出してしまっていた。

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