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ミラー「Cace4誘惑」

 鳴海の家で今夜は対策を練ることになった。

 巻き込む人たちは最低限のほうがいい。渚や僕の家じゃ両親たちがいるからな。

 とはいえ、今になってみると、女子の家に泊まることになるなんて……しかも、あの鳴海の家だ。女子2人に男1人か、緊張するな。

 とりあえず僕は自分の家に服などを取りに帰ることにした。ひとりで大丈夫かと聞かれたけど、2人を押し切って僕ひとりで家に向かった。

 狙われているのは僕か渚か?

 僕だったとしたら、1人のほうがリスクが少なくて済む。

 でもこうやって独りになると心細い。

 渚の元を離れてから景色や人々がぼやけてしまった。もう人の顔も判別できない。

 たまにほかの人よりもぼやけていない人がいる。そういう人は渚が知っている人たちだ。僕の両親もほかよりマシなほうで、渚が親と接するたびにハッキリとしてきたような気がする。

 住宅街を進んでいると、十字路を横切る輪郭のハッキリした人を見た。そういう人を見るたびに少しほっとする。そう思ったのも今回はつかの間だった。

 僕は彼女の直接の知り合いじゃない。けど事件のときにその顔を調べた。事件というのは〈クラブ・ダブルB〉事件だ!

 僕は駆け足でその人物を追った。

 角を曲がってその背中を捕らえた。

「ちょっと待って!」

 その人物が振り返った。

 間違いない。

 藤宮彩だ!

 ありえない……ということもないのか。鳴海も戻ってきたんだ。彼女だって戻ってきてもおかしくはない。

 藤宮彩はあの事件で犠牲者となった生徒。1番目に失踪した保健室の水鏡先生は首謀者だったわけだから、おそらくは1番目の犠牲者ということになるのかな?

「なんですか?」

 藤宮彩は不思議な顔で僕を見つめた。同じ学校の生徒とはいえ、学年も違うしほぼ初対面のはずだ。会ったとしてもすれ違って程度で記憶には残ってない。

 とにかく焦って声をかけちゃったけど、なにを話したらいいんだろう?

「あの、藤宮彩さんですよね?」

「そうですけど……?」

「それだけ確認したかったんです……えっと、じゃあさよなら!」

 僕は来た道を全速力で引き返した。チラッと振り返ると、藤宮彩が不思議そうな顔をしたまま、まだこっちを見ていた。慌てて僕は角を曲がった。

 角を曲がってすぐに僕は立ち止まった。

 失敗したな。

 いきなり声をかけちゃったのも失敗だったけど、僕の家あっちだよ。今から追い抜くのも気まずいな。逃げるときに追い抜かせばよかった。

 少しここで時間を潰すか、回り道するか……。

 やっぱりこの世界で改変が起きたのは間違いない。

 鳴海愛が戻ってきたのも、彼女自身に重要な意味があったんじゃなくて、戻ってきた人たちの中のひとりだったってわけになるな。

 ほかにも戻ってきた人たちがいるかもしれない。

「……ッ!」

 僕は息を呑んだ。

 いなかったことにされた人たちが戻ってきた……。

 だとしたら、もしかして椎名アスカもいるかもしれない!!

 アスカが帰ってきた。アスカが帰ってきたんだ。良かった、アスカが……帰ってきたんだ。

 喜びが溢れてきた。

 けど、すぐに冷静になってしまった。

 じゃあ渚の立場は変わったのか?

 変わってない。ついさっき別れたときは、まだ彼女だったじゃないか。

 いや……アスカが帰ってきて、渚との関係性が変わるのだろうか?

 もしかしたらアスカがいたとしても、僕とアスカは何の関係もない者同士……なんてこともありえるはずだ。

 僕の気持ちはどうしたらいい?

 アスカと渚への気持ちが混在しちゃってるんだ。今まではこの世界にアスカがいなかったら、混在する気持ちも抑えようと思ってたんだ。

 元々の関係に正すなら僕は渚と別れるべきだろう。それでアスカと付き合えるとは限らないけど。でも、今の僕にとってはアスカよりも渚が必要なんだ。

 渚のことが好きだって気持ちはある。

 ならアスカへの気持ちは捨ててしまうべきなんだ。それがきっといいんだ。

 とにかくアスカを探そう。話はそれからだ。

 僕は急いでアスカの家に向かった。

 実は世界はこうなってしまってから、アスカの家に行ってみたことあった。アスカの住んでるマンションの部屋はあった。でもそこにはアスカの両親はいても、アスカの存在はなかったことにされていた。

 マンション着いた僕は急いでエレベーターに乗り込んだ。

 ドアが開いたと同時にエレベーターから飛び出して廊下を走る。

 見慣れたドアの前で立ち止まった。

 深呼吸をする。

 本当にアスカはいるのか?

 インターフォンに伸ばした指が震える。

 もしアスカがいたら僕はどうしたらいい?

 どんな顔をして会えばいい?

 会ってもらえなくてもいいんだ。いるかいないか、それを確認できれば今はいい。

 よし。

 僕はインターフォンを鳴らした。

 しばらくしてスピーカーからアスカの母親の声が響いてきた。

《どちら様でしょうか?》

「お宅にお嬢さんは在宅でしょうか?」

《うちに娘などおりませんが……ん、またあなたですか!》

「いえ、あの……」

《うちには娘なんていないって何度も言ってるでしょう!!》

 慌てて僕は逃げ出した。

 前に来たときしつこくして怒らせてしまってたんだ。

 エレベーターに乗り込んでから落胆した。

 アスカはいなかった。

 ほかの人たちが戻ってきたのにどうして?

 どうしてアスカだけがいない?

 ……まだ戻ってきたのを見たのは2人だけだ。ほかにも戻ってきてない人だっているかもしれないじゃないか。でも、アスカが戻ってこないなんて、どうしてなんだよ。

 ゆっくりと下りるエレベーターに揺られながら肩を落とした。

 大丈夫、べつに状況が悪くなったわけじゃないさ。なにも変わらなかっただけなんだ。この世界には元から椎名アスカなんていないんだから。

 でも期待しただけにショックは大きい。

「……なっ!?」

 なにが起きたのかわからず僕は声をあげた。

 突然だ、突然、なにかが僕の身に起きた。それがなんだか理解するまで数秒を要してしまった。

 体をつかまれている。それも後ろからだ!?

 僕の後ろにはあるのは……鏡かっ!?

 〈ミラーズ〉だ、〈ミラーズ〉が僕の体を後ろからつかんでいる。

 迂闊だった。アスカのことに気を取られて、エレベーターの鏡のことを忘れていた。こんな大きな鏡を忘れていたなんて。

 〈ミラーズ〉の指が胸に食い込んでくる。

 必死になって腕を外そうとするけど、なんてバカ力なんだ!

 〈ミラーズ〉の目的は?

 僕を殺したりするならとっくに背後からやられていたはずだ。まさか僕を連れ去ろうとしているのか――どこに!?

 エレベーターのドアが開いた。それを見てすぐに叫んでいた。

「助けて!」

 誰だかわからなかったが、誰でもいいから助けて欲しかった。

 エレベーターに乗り込んできた彼は、慌てず迅速に動いた。まるではじめから対処法を心得ているようだった。

 いや、きっと彼は心得ていたんだ。

 影山彪斗はすぐさま僕の後ろの鏡を叩き割った。

 すぐに僕は解放され、床に散らばった鏡の欠片が目に入った。

 割れた鏡たちに映る不気味な顔。

 包帯で目隠しをした〈ミラーズ〉の顔が、鏡の欠片一つ一つに映っていた。

 呆然とする僕の腕を影山彪斗が引っ張って、エレベーターの外まで引きずられた。

 僕の背後でしまったエレベーター。

「ありがとう、助けてくれて」

「どういたしまして」

 影山彪斗はすごく落ち着いている。こうでなきゃ僕を助けられなかったかもしれない。

 廊下のフェンスから遠くの景色を眺めた。

 今回は僕のミスだ。町中には鏡のなるもので溢れているんだ。ここから見える家の窓だって、車の窓だって、もっと気を配るべきだった。わかっていたはずなのに、できないんだ。

「大丈夫かい?」

 横から影山彪斗が声をかけてきた。

 僕はうなずいて見せる。

「まあ……なんとか」

「僕のことは覚えてくれてかい?」

「影山彪斗だろ」

「そう、君が覚えていてくれたから、今度は前より楽に君の前に現れることができた。もう少し人が来なくて安全な場所に行こう」

 歩き出す影山彪斗に僕はついていった。

 階段を上る影山彪斗が向かったのは屋上だった。屋上の前には鍵の掛かった扉があったけど、よじ登れば簡単に越えられる物だった。

 まず影山彪斗が扉を越えた。

「登れるかい?」

 彼は手を貸そうしたけど、僕は遠慮して自力で扉を登った。

 屋上は広くてなにもなかった。もちろん鏡になりそうな物もない。ただ万が一〈ミラーズ〉たちが下の階から現れたら逃げ場はないけど。

 影山彪斗が立ち止まり、振り返って僕を見た。

「さて、まずは僕が何者であるかを話そう」

「なんで僕の前に現れたの?」

「僕らと同じ“弾かれたモノ”だからさ。とにかくまずは僕の話を聞いてくれよ。前回はどこまで話したかな?」

「まだ名前しか教えてもらってないよ」

「そうか、すまない。記憶障害がよく起こるせいで苦労する。なら初めから順を追って話そう」

 影山彪斗は少し間を置いてから、一気に話をはじめた。

「まずは君の置かれた状況からだ。世界分裂化現象と言って、世界は人の数だけあり、分裂を続けている。もしも3人の人間がいて、世界の数が2つしかなかった場合、君のような“弾かれたモノ”が余ってしまうことになる。たいていの場合は“弾かれたモノ”は自分自身の存在を保てなくなって消失してしまう。それは自分自身を映す世界という鏡がなくなってしまうからだ。ここまではわかるかい?」

 わかるようなわからないような感じだ。今いるこの世界が僕の世界じゃなくて渚の世界なんだってことは理解しようと思えばできる。それに当てはめてて考えれば影山彪斗の話も意味のわからないことではない。けど、言ってることが正しいかどうかはわからない。

「僕が“弾かれたモノ”とかいうのだとしたら、なんで僕は消失してないの? 普通はするんでしょ?」

「消失しない方法は自分を映すモノを見つけること。君の場合はこの他人の世界だ。この世界のホストは君のことを強く想っているんだろうね、それだけ強く映すことができる」

 今まで僕に起きていたことを考えればそれも理解できる。やはり僕は渚によって生かされてるってことなんだ。

 さらに影山彪斗は話を続ける。

「僕らの目的はまず、“弾かれたモノ”の保護と消失を食い止めること。それから〈ミラーズ〉との戦い。最終的な目標は自分の世界を新たに構築することになってる。大雑把にはこの3つかな」

「〈ミラーズ〉との戦いって、あいつらはいったい何なの?」

「プラスとマイナス、陰と陽、分裂しようとする力があるなら、それの逆の力もあるっていう当然の摂理さ。世界分裂化現象とさっき言ったけど、つまり世界は元々1つだったという仮説になっている。〈ミラーズ〉は大きな枠組みでいう世界の意思で、世界を1つに戻そうとしている……という仮説になってる」

「仮説ね……」

「ちっぽけな人間じゃそう簡単に世界の摂理をすべて解明することはできない。とにかく〈ミラーズ〉は僕らとは逆の意識を持って活動しているのだから、戦わなければいけないのは必定なのさ」

 すでにいろいろなことを体験しているせいで、だいたいの話は呑み込めた。

 影山彪斗の表情が真剣になった。

「そこで君に問う。僕らの仲間にならないかい?」

「仲間になったら僕はなにをすればいい?」

{さっき話した僕らの目的に付き合ってもらう}

 その中には〈ミラーズ〉との戦いも含まれていた。

 もう僕は〈ミラーズ〉に狙われている。さっきエレベーターで襲われたことを考えれば、僕自身が襲ってきたのは確実だ。なら逃げるか戦うかしかないじゃないか。

「仲間になるよ」

「本当にいいんだね?」

「すでに危険と隣り合わせなんだ。必要に迫られて僕はその選択肢かできないよ」

「ならこの世界を離れよう」

「えっ?」

 僕は渚のこの世界によって生かされてる。だとしたら――。

「ここを離れるなんて自殺行為じゃないか!」

 強くいう僕に影山は首を横に振って見せた。

「この世界以外でも君が存在できる術を僕らは持っている」

「どんな方法?」

「世界の分裂や“弾かれたモノ”の出現は今にはじまったことではない。ずっとそれを研究したり戦い続けている人たちがいるんだ。そして、ある偉大な魔導士が、ついに疑似世界を創り上げたんだ」

「世界を創るなんて……」

「そう、とてつもなく凄い偉業だよ。誰も真似できない、だから疑似世界はまだ1つしかない。そこの世界に僕ら“弾かれたモノ”は身を寄せ合って、互いを強くに認識しながら暮らしている。僕らが存在するためには、他人に意識してもらう要素も重要なんだ。だから君にも僕らと暮らし、深く付き合ってもらわなくてはいけない。君が仲間になるというのなら、この世界を捨てて僕らの世界に来てもらう」

 この世界を捨てる。

 もしかして渚にもう会えない?

 ほかの人たちにも会えないってこと?

「この世界の僕の知り合いにはもう会えないってこと?」

「僕らの世界にもいるにはいるが、みんなゴーストのようにぼやけた存在さ」

 渚が近くにいないときの風景。そういうことなのだろう。彼らの世界には渚もいないも同然ということなんだ。

「もうこの世界には戻って来れないの?」

 影山彪斗だって僕に会いに来たんだ。できないことはないと思う。

「しないほうがいい。今僕がこうして君に会いにこの世界にいること事態、とてもリスクのある行為なんだ。この世界やこの世界のホストに重大な危険を及ぼす可能性がある。だからなるべく僕らは他人の世界には干渉しない。“弾かれたモノ”を保護しに来て、新たな“弾かれたモノ”を生んでしまったら だ。そもそも“弾かれたモノ”の君がこの世界に居座っていることが悪影響を与える」

 僕が悪影響……。

 渚のことを考えるならさっさとこの世界から出て行ったほうがいいってことか。

「わかったよ。今すぐあなたたちの世界に行くよ」

 本当は最後に渚の顔を見たかった。でもそれもきっといけないんだ。干渉すればするほど悪影響を及ぼす。

 渚が〈ミラーズ〉に襲われたのも僕のせいなんだ。

 この世界から僕がいなくなったらどうなるんだろう。

 いなかったことにされて渚の記憶も改変されるんだろうか。

 もう決めたんだ。

 さよなら渚。

 ありがとう渚。

 影山彪斗が僕に手を差し伸べた。

「さあ、行こう」

 その手をつかんだ瞬間、世界が歪んだ。

 この感覚は僕がこの世界から消えそうになったときに近い。

 目が回る。

 気持ち悪くて吐きそうだ。

 今さらだけど僕は後悔した。

 影山彪斗を信用してよかったのか?

 頼りになる人が欲しかった。だから僕はすぐに影山彪斗をすぐに信用してしまった。〈ミラーズ〉からも助けてもらったせいもあるだろう。

 もう引き返せないのだから考えても仕方ないかもしれない。

 世界が廻る。

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