第099話|ココ編【……これは……精霊の……】
パックはそっと、ココの手を握った。
「……君だけに、背負わせない……」
パックとココ、二人の思いに呼応するように、精霊たちの意思も一つになった。
そして、ココのオーブに六つの意思が入り込んだ。
オーブの中心から光が溢れる。
“お節介な風”の翠。
“冷静な水”の青。
“誇り高い火”の紅。
“寡黙な土”の金。
“慎重な闇”の漆黒。
“優しい光”の白。
その光は次々に色を変え、渦を巻いた。
飛行型魔族の下に、巨大な魔法陣が浮かび上がる。
その魔法陣から、眩い光の柱が現れる。
ココとパック、その場にいたアーラやエルザ、働き蜂たちまでもが、その光の中に包まれた。
音が消える。
そしてゆっくりと、パックたちの視界が真っ白になった。
——少しずつ、目が慣れてくる。
二人は見たこともない風景を目にした。
初めて目にする植物や果物。
元いた世界ではない、未知の世界。
空を見上げると、透き通るような青空だけは、パックたちの世界と同じだった。
二人は同時に思った。
その世界は“魔族たちがいた世界”ではないか、と。
そして、アーラとエルザ、働き蜂たちは言葉を失った。
目の前に広がる世界は、紛れもなく故郷の景色だった。
そこには、先ほどまで戦っていた飛行型魔族と召喚のノイズで死んでいった働き蜂たちがいた。
蜂たちは花畑を元気に飛び回っていた。
そして飛行型魔族は、丘の上で悠然と、凛とした佇まいで立っていた。
飛行型魔族がこちらを向く。
そしてアーラと目が合った。
飛行型魔族が笑った気がした。
また、目の前が真っ白になった。
ゆっくりと視界が戻ってくる。
光が消えたあと、しばらく誰も動けなかった。
風も、土も、水も、火も、闇も、光も。
すべての精霊たちが、静かに何かを見送っているようだった。
そこにあったのは、勝利の余韻ではなかった。
ただ、長く苦しんでいたものが、ようやく解放されたような静けさだった。
目の前に倒れていた飛行型魔族は、跡形も無く消えていた。
アーラは大地に横たわりながら、静かに目を閉じた。
アーラには、二人が放った魔法が、“救いの光”に見えた気がした。
アーラは、丘の上に立っていた友の勇姿を目に焼き付けた。
そして、目尻から溢れ出る涙を止めることができなかった。
“精霊の理”が見せた光景は、ココとパックに重くのしかかっていた使命を、少しだけ、軽くしてくれた。
そして、二人が繋いだ手の指が、同時に動き、絡まった。
エルザもまた、言葉を失っていた。
先ほどの光景を思い出した。
エルザの子どもたちは、故郷の花畑を、元気に飛び回っていた。
エルザは胸元で、小さく両手を握った。
戻ってきたわけではない。
失った命が、なかったことになるわけでもない。
それでも、あの子たちが苦しみの中だけで終わったのではないと知れたことが、エルザの胸に残った痛みを、ほんの少しだけ撫でてくれた。
エルザはパックを見て言った。
「……アーラさんが心配です……」
ココとパックがハッとする。
二人はアーラを見た。
アーラは横たわったまま、こちらを見ていた。
二人は顔を見合わせた。
同時に駆け出した。
繋がったままの手に気づいた。
二人は同時に手を離した。




