第095話|ココ編【——届けっ!!】
「待ってアーラ、声が……」
パックの声に、アーラが止まる。
「……声、だと?」
アーラは戦いに集中していたため、聞き逃していた。
アーラは音に集中した。
「……同胞……助ける……」
「——!?」
飛行型魔族が、うわ言のように繰り返していた。
「——助ける、だと?」
アーラの目が細まる。
「……何を助けようとしている」
「……」
「……まさか……」
「同胞の骨に残る気配を……助けを求める声だと勘違いしているのか?」
「……バカな……」
「……そんなことが……」
「……」
だが、否定できなかった。
アーラはそのまま黙ってしまう。
アーラの出した結論を聞いて、パックは震えていた。
「……そんな……」
「……そんなことって……」
胸ポケットの中のエルザも、働き蜂たちも言葉を失っていた。
アーラは空を見上げた。
(……どうする……討つのか……俺に、討てるのか……)
ハッと我に返る。
飛行型魔族は“壊れている”。
だが、同情したところで、止まる相手ではなかった。
アーラの目が細まった。
(……やるしか……無いのか……)
飛行型魔族はアーラたちを見失い、空を旋回していた。
だが、奴は“目が良い”。
見つかるのは時間の問題だった。
迷っている時間は無い。
アーラは体に絡みつく感情を振り解く。
そして、静かに息を吐いた。
「……お前ら、よく聞け」
「……奴との戦いで、俺がどうなろうと手出しはするな……」
「……頼む」
「——!?」
パックは目を見開いた。
(……頼むって……アーラが……)
パックは喉を鳴らした。
アーラはそう言い残し、パックたちから離れるため、森の奥へと羽ばたいた。
木々を縫うように、低空で飛行する。
すると、上空の飛行型魔族がアーラを捉えた。
翼を畳み、下降速度を上げる。
だが、森に入る寸前で翼を広げた。
森に入ってこない。
そして、森のすぐ上を飛び、アーラを追跡する。
アーラは舌打ちした。
「……ちぃっ、入って来ないか……」
反響音で、障害物を難なく避けながら、飛行型魔族の位置も捉えた。
すると、飛行型魔族の周りに翠の魔法陣が複数現れる。
アーラの顔から血の気が引く。
「……風魔法か——!?」
アーラは思い出す。
友だった頃の奴の姿を。
次の瞬間。
魔法陣から次々と風の刃が打ち出される。
矢継ぎ早に打ち出される風の刃は、森の木々を削っていく。
アーラは木を盾にして避ける。
逆旋回。
反転。
アーラは動きを読まれないように、不規則に旋回していた。
だが、次第に風の刃がアーラを掠めるようになってきた。
「……ちぃっ」
「……だが、お前なら次はこう来るな……」
アーラは突然旋回をやめ、一直線に飛んだ。
——次の瞬間。
アーラの周りの木の葉だけが切り裂かれた。
「……フッ、変わらんな……」
「……動けば逆に当たる」
アーラは再び反響音を捉えた。
前方に開けた場所。
左は切り立った崖、右には森が広がっていた。
「……さて」
「……俺はどっちに行くだろうな?」
飛行型魔族は右の森に風の刃を飛ばして葉を散らし、木々を丸裸にした。
アーラの進路に、隠れる場所が無くなった。
そして開けた場所に先回りするため加速した。
「……そう来るよな?」
「……だが、俺にはもう、重りが無いんだぜ?」
アーラが突然翼を広げ、減速してふわりと上昇し、森から出た。
そして、加速した飛行型魔族の背後を取った。
「……しばらく眠ってろ」
アーラはくちばしを大きく開いた。
ギィィィィン!!
アーラの音攻撃。
だが、飛行型魔族も読んでいた。
飛行型魔族の背後に魔法陣が浮かび上がる。
次の瞬間、飛行型魔族が突風で加速した。
アーラの音攻撃を置き去りにした。
「本当に壊れているのか!?」
アーラは力強く羽ばたき、後を追った。
飛行型魔族はそのまま宙返り——。
「……もう背後は取らせんっ」
アーラも必死に食らいついた。
「……」
アーラは気づいていなかった。
——自分の顔が笑っていることに。
そして、胸が高鳴った。
この世界に強制的に召喚され、友と同じ空を飛ぶことなど不可能だと思っていた。
「——っ」
だからこそ。
壊れていて欲しくない。
「——っ」
アーラの目尻から雫が溢れた。
風で後方に飛ばされた雫は、高速の風圧に耐えきれず霧となった。
「——戻ってこい!!」
「——正気に戻れ!!」
アーラは叫んだ。
だが——
飛行型魔族には届かなかった。




