第091話|ココ編【……トール……】
———同時刻、森の中
教団兵士が呟いた。
「……今のは……」
教団術士が答えた。
「……術式の崩し方が甘かったか……」
教団術士隊長が顎に手を添えた。
「……いや、術式は崩し過ぎると召喚自体が危うくなる……加減が難しい」
「……だが、どちらにしても召喚は失敗だ……」
「稀にこういう事がある」
「……一瞬見えたが、あの様子では役に立たん……放置で良い」
教団術士隊長が空を見上げ、両手を広げた。
「……あの蟻型は質・量ともに素晴らしかったな……」
「ワラワラと湧き出る様は、心底震えたよ」
「……サンデル様も喜んでくださったしな」
教団兵士が答えた。
「……はい」
教団術士隊長が続けた。
「……また、準備に数日かかるな……」
「君は“供物”を集めてくれ」
教団兵士が敬礼した。
「はっ」
———エイル邸
エイルは大きくなったお腹に手を添えて、椅子に腰掛けた。
そして静かに、窓の外を見た。
「……」
妊娠する前までは、ただ“使命感”に突き動かされ、真っ直ぐに進んできた。
だが、今こうして、ゆっくりと振り返る時間が与えられた。
視線は窓の外に向いていた。
しかし、エイルはその景色の向こう側をぼんやりと見ていた。
そして毎日のように、トールを思い出していた。
(……私の祝福は、人を救える……)
(……だけどトールは……祝福に振り回されるなと言っていた……)
(……他人を幸せにできても……自分を“不幸”にすることもある……と……)
エイルは目を閉じた。
そして、次世代の勇者と言われていた少女、ココを思い出した。
(……トールは……祝福を持つ子を見ると、放っておけなかった……)
(……あの人自身が……その辛さを知っていたから……)
エイルは静かに目を開けた。
景色は眩しく、瞼が少し閉じかけた。
そして、パックを思い出した。
(……あの人はハッキリと言っていた……あの少年は放っておけない……危ない……と……)
(……トール、貴方は……何を守ろうと……)
——とある村の教会
老婆と少女が祈っていた。
過去に魔族の被害を受け、そして復興を遂げ、人々は徐々に元の暮らしを取り戻していた。
失ったものは大きかったが、それでも前を向いて生きていた。
そのきっかけをくれた“勇者様”に祈りを捧げていた。
そして、今のこの平和が、ずっと続きますように、と。




