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第090話|ココ編【可愛いも、蜂蜜も、正義よ】

———みかん畑


「……」

アーラはココの様子を静かに見ていた。


(……俺の時と、リアクションが真逆すぎないか?……)


(……攻撃しようとしてたよな……確か……)


だが、あの時とは状況が違う。


魔族に対する認識が今とは違った。


——そう、違ったのだ。


アーラはそう思うことにした。


パックはふと思い出した。

「……あ、そういえばさ、ココはツガイって知ってる?」


「——!!」

アーラの全身に寒気が走った。


ココは博学だった。

大抵のことは知っていた。

「……何よいきなり……今忙しいんだけど……」


アーラは珍しく名前で呼んだ。

「パック!……みかん……みかんの選び方を教えてくれ」


パックが振り向いた。

「……えっ、あぁ、うん……わかった」


(……危なかった……)


「……アーラがね、僕とココがツガイだって言うんだよ」


「——っ!?」

ココ、アーラ、エルザは一斉にパックを見た。


「……」


パックは場の空気が凍ったのを感じた。

「……あれ?……何でみんな黙ってるの?」


ココの耳が真っ赤になっていた。

「……」


「……知らない」


「……え?」


ココの声がこもった。

「……ツガイなんて……知らないわ」


パックは小さく息をついた。

「……そっかぁ……ココなら知ってると思ったんだけど……」


「……」

パックの言葉に、ココのプライドが揺らいだ。

だが、恥ずかしさが僅かに勝った。

「……ちょっと、ど忘れしちゃったみたい……思い出しておくわ……」


アーラはココと目を合わせないようにした。


エルザが場の空気を優しく包んだ。

「……この方はココと言う名前なのですか?……私たちの作った蜂蜜をぜひとも召し上がってもらいたいのですが……」


パックがエルザの提案に飛びついた。

「それ!良いね!」


「ココ、エルザたちが作った蜂蜜があるんだ。エルザの“美味しい”が詰まってるよ!」


「——っ!?」

「……蜂蜜……ですって?……」


パックの妙なキャッチコピーが気になったが、それどころではなかった。

ココは無類の蜂蜜好きだった。

小さい頃、厨房に忍び込み、蜂蜜を全部食べてしまい、執事長に怒られたことがあるくらいだった。


「……そんな高価な物……」

「……いえ……ぜひ、食べたいわ!」


渡された小瓶には、エルザたちの巣から移した“琥珀色”に輝く蜂蜜がたっぷり入っていた。

「……あ……」

唾液が染み出し、顎の奥がきゅっと痛んだ。


震える手で小瓶を受け取り、更に唾液が染み出した。

「……もう、見てるだけで、美味しいわ……」


蓋を開けて、スプーンを差し入れると、ずしりと重い粘度がスプーンから伝わってきた。


ココの喉が大きく鳴った。


目を見開いて、口を開けた。


それを見ていたパックが、ココと同じ表情になった。


アーラの喉も大きく動いた。


一滴もこぼさないように、丁寧に、ゆっくりと口に運んだ。


「……」

——長い沈黙


その琥珀は、顎の奥にきゅうっと痛みが走るほどに、濃厚な甘味で舌をとろけさせた。

そして、芳醇な香りが鼻に抜け、閉じた瞼の裏に一面の花畑が広がった。


ココは頬に手を添え、深い溜め息をついた。


もう言葉なんて出てこなかった。

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