第089話|ココ編【……そんなの、聞いてない】
———みかん畑
ココは馬を止めて、風に運ばれてくる爽やかな香りを楽しんでいた。
そして一瞬、芝生の上を翼の影が走った。
「——!」
「……来た」
ココは空を見上げた。
思ったよりも、太陽が眩しくて、手で影を作った。
大きな翼。
見覚えのある影。
その背に乗る人影。
ココの胸が跳ねた。
その影は、少し先の開けた場所に舞い降りた。
ココは馬から降りて、徐々に走り出した。
高鳴る鼓動を抑えながら、みかんの木を避け、舞い降りた影へと駆け寄った。
翼の背から飛び降りるパックが目に飛び込んだ。
同時に違和感——。
パックの肩に何か乗っている。
「——え?」
先入観とのギャップが、ココの全てを停止させた。
「……」
「……ちょっと……」
「……何よそれ……」
「……」
パックが笑顔で近づいてきた。
ココは指差した指をわなわなと震わせた。
「……その肩に乗ってるのは何っ……」
パックがあっけらかんと答えた。
「……うん、新しい仲間の“エルザ”だよ」
ココは口に手を当てた。
「……そうじゃなくて……」
「……なんで……」
「……そんなに……」
「……可愛い魔族なのよっ!!」
「……えっ?」
ココがツカツカと詰め寄った。
「……あぁ……ぁ……」
震える手を、怯えさせないように、ゆっくりと近づけた。
エルザが首をかしげた。
「——っ!?」
その動作がココに刺さった。
「……あぁぁぁぁ……」
「……ダメ……」
「……かわいいぃぃ……」
「……」
ココがパックを見た。
「……触っても、平気?」
パックがエルザを見た。
「……良いってさ」
「手に乗せてあげなよ」
「——っ!?」
「……良いの?」
ココが両手のひらをエルザに近づけると、エルザはパックの肩からココの手に移動した。
そして、エルザはココを見上げて、そのままちょこんと座った。
「——っ!?」
ココの目が血走り、息が荒くなった。
「……」
エルザはパックに確認した。
「……この方は……私を食べたりしませんよね?……」
パックがこんなココを見るのは初めてだった。
「……食べたりは……しないと思う……たぶん……」
そこへ追い打ちをかけるように、ココに更なる試練が降りかかった。
「——女王様、ただいま戻りました」
無数の働き蜂たちが、手足を花粉でもふもふにしたまま、蜜団子を抱えて戻ってきてしまった。
「——!?」
働き蜂たちがエルザの周りに集合した。
「…………」
ココは白目になり、そのままフリーズした。




