第087話|ココ編【……不思議な、感覚です】
——上空
パックはアーラの顔を覗き込んだ。
「南に向かうと、リンゴと同じ位の大きさのオレンジ色の実をつけた木が見えると思うから、その辺りに降りて」
アーラの片方の目が上がった。
「……その実はリンゴより美味いのか?」
パックは首を傾げた。
「……うーん、これは好みだけど……僕はどっちも好きかな……」
「……」
アーラはリンゴに後ろ髪を引かれていた。
パックが前方を指差した。
「……あ、見えてきた。あれだよ」
次の瞬間、アーラが異変をキャッチした。
「……待て、同胞……か?……小さいが、数が多いな……」
パックの体が強張った。
「えっ!……戦闘に、なる?」
アーラの目が細まった。
「……いや……壊れていないかもしれん……これは……良いぞ!」
(……能力はまだ分からんが……味方に引き入れれば……)
アーラは降下を開始した。
大地が近づいてくる。
——その時だった。
アーラの後方から、魔族の影が大群で迫ってきた。
「——っ!?」
アーラが急旋回した。
パックがマフラーを必死で握った。
「——わぁっ!!」
アーラは少し違和感を覚えた。
(……何だ?……威嚇、か?……殺気が無い……)
(……だが、向こうも飛行タイプ……油断はできん……)
執拗に追ってこないので、少し距離を取って着地した。
アーラが警戒しながらも、話しかけてみた。
「……話せるのか?」
「……こちらに敵意はない」
「……」
パックは黙って様子を見た。
だが、心は弾んでいた。
(……話せるかもしれない……)
すると、飛行する大群の後ろから少し大きな個体が姿を現した。
パックが目を見開いた。
パックの世界にも似たような生き物がいる。
その姿は、蜂にそっくりだった。
「……え、蜂?」
「——っ!?」
蜂の魔族がパックの声に反応した。
「……その者は、私たちと話せるのですか?」
蜂の魔族はアーラに向かって言った。
「……そうだ。さっきも言ったが、我々に敵意はない」
「まぁ、そっちにも戦闘の意思は無いんだろ?」
「……はい。……どうか、このまま見逃してください」
蜂の魔族のリーダーは群体を見た。
「……この子たちも、戦う意思はありません」
高速で飛行する群体も、よく見ると蜂に似ていた。
だが、リーダーらしき大きな個体を守るように、こちらを威嚇しながら飛行していた。
アーラが蜂の魔族に話しかけた。
「……お前たちも、強制的にこの世界に呼ばれたんだな?」
「……壊れなかったのは何故だ」
「……」
蜂の魔族のリーダーが目を伏せた。
「……はい。あのノイズのような衝撃から、この子たちが守ってくれたのです……その身を挺して……」
「……だから助かったのです」
「……あなたは?何か方法があったのですか?」
「……」
アーラは翼をすくめた。
「……俺は“音”であのノイズを消した」
蜂の魔族が驚いた。
「……あの状態で、ノイズを……」
「……守ってくれた子たちは、みな衝撃に耐えられずに、死んでしまいました……」
「……私は、この子たちの母です」
「……この世界に少しずつ適応し、子を産み、生き延びてきました」
アーラが尋ねた。
「……他に生き延びた者はいるか?」
女王蜂が答えた。
「……分かりません。生きるのに精一杯でしたので……」
アーラは目をつむった。
「……そうか」
「……」
「……提案があるのだが……我々と協力しないか?」
女王蜂が答えた。
「……この子たちに危害を加えないと約束して頂けるなら……」
「……それと……」
女王蜂はパックを見た。
「……こちらの方は?見たところ、この世界の生物のようですが……」
アーラもパックを見た。
「……コイツはこの世界の人間という種族だ。我々と対話できる能力を持っている」
「……だが、コイツ以外の人間たちは、我々を敵視している」
「……だから、協力が必要なのだ」
女王蜂が身を乗り出した。
「……人間たちは同じ種族間で争うのですか?」
アーラが翼をすくめた。
「……厄介だろ?」
女王蜂が答えた。
「……はい」
「……ですが、私たちは戦えません」
「それでもよろしいでしょうか」
アーラが問うた。
「能力は?」
女王蜂が子どもたちを見た。
「この世界の植物から蜜を集め、繁殖してきました」
「……出来るのは、それだけです」
パックが割って入った。
「……それ凄いよ……蜂蜜ってすごい高価なんだよ……」
「……それを作れるなんて……凄い」
女王蜂が尋ねた。
「……そうなのですか?」
「うん」
「薬にもなるし……」
「……とにかく凄いよ」
女王蜂は頷いた。
「……分かりました。こちらとしても、協力関係は助かります」
「友好的な方で、良かったです」
アーラはため息をついた。
「友好的なのはコイツだけだ。油断するな」
「……正確には、コイツとそのツガイだけだ」
「……まだツガイじゃないが……」
パックはアーラの方を向いた。
「……ツガイってなに?」
アーラがパックをちらりと見た。
「……何でもない」
「……」
女王蜂は黙った。
パックがポンと手を打った。
「……そうだ、名前なんていうの?」
「……名前とは何でしょうか」
女王蜂が質問で返した。
パックは息を漏らした。
「……やっぱり無いんだね……アーラと一緒か……」
「……」
パックは顎に手を添えた。
「……じゃあ、エルザはどう?」
アーラは翼をすくめた。
「……ちなみに俺はアーラと呼ばれている」
エルザはパックを見た。
「……ではそれで、お願いします」
パックが笑顔になった。
「よろしくね、エルザ」
「……」
「……名前とは……不思議な感じがしますね……」




