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第085話|ココ編【私を全力で甘やかしてくる貴族様が、毎週押しかけてくるんだけど!?】

———デズモンド執務室


デズモンドは、ココの刻印が入ったペーパーナイフを磨いていた。


「……今週の議会の休みは……確か、予定が空いていたな?」


秘書が手帳を確認した。


「……はい。支援団体の会合が延期になりましたので、ほかの予定はお断りしました」


「……久しぶりに、ゆっくりお休みになれますね」


デズモンドは、ペーパーナイフを光へかざした。


「……よし。では、ココ嬢に会いに行こう」


「……」


秘書が黙った。


「……また、勇者グッズが増えましたね……」


デズモンドは秘書を見た。


「……グッズではない……お布施の返礼品だ……」


秘書は、デズモンドの机に置かれたエイル著書の『薬草学』へ視線を移した。


そして、壁に飾られた“トールの肖像画”を見た。


「……トール様の限定肖像画を落札した時は、ひやひやしましたよ……」


デズモンドは窓の外を見た。


「……あの時は危なかった……予算ぎりぎりだったからな……」


「……だが、後悔はない……」


「……勇者とは、後世へ語り継がれ、残されなければならん……」


「それを守るのが、我々の責務だ」


「……はい」


秘書も窓の外を見た。


「ココ様邸訪問のご用件は、いかがいたしましょうか?」


デズモンドが目を見開いた。


「……もちろん、激励だ」


「……ココ嬢はな……勇者になる前から推して……いや、目をかけていた……」


秘書は目を伏せた。


「……はい。一途に……」


デズモンドが引き出しを開けると、同じペーパーナイフが見えた。


「……侯爵。それは……」


「うむ。予備だ」


———ココ邸


執事長は、ココの部屋をノックした。


「……ココ様。次の週末、デズモンド卿から激励訪問の申し入れが来ておりますが……」


ココは元気よく扉を開けた。


「えっ、デズモンド来るの?」


「やった! また、あのクッキー持ってきてくれるかな?」


執事長は肩をすくめた。


「……奴のことです……一緒に苺ミルクも持ってくるかと……」


「やった」


そう言って、ココは少し跳ねた。


———週末


ココの屋敷前に、馬車が横付けされた。


御者が扉を開けると、中からデズモンドが降りてきた。


出迎えたココが目に入るや否や、大きな声で名を呼んだ。


「——ココ嬢! ハハハハ!」


ココが走ってきた。


「デズモンド!」


そう言って両手を広げ、跳び上がった。


デズモンドはココを両手で受け止め、高く持ち上げて、くるりと回った。


幼少期からのルーティン。


だが、ココは成長した。


その成長を感じてからというもの、デズモンドは毎日の筋力鍛錬を欠かさなかった。


おかげで、腹も出ていない。


ココを高く持ち上げた瞬間、ふと腕の傷跡が目に入った。


デズモンドの手が、一瞬だけ止まった。


「……」


だが次の瞬間、何もなかったかのように笑った。


「……元気そうで、何よりですな」


ココをゆっくりと降ろすと、使用人へ目配せした。


「……ココ嬢。いつものアレ、持ってきておりますぞ」


歯を見せ、片目をつむった。


「やった!」


ココは、ぴょんと跳ねた。


執事長が笑顔で言った。


「……相変わらずだな」


デズモンドも笑い、執事長の背中を叩いた。


「……お前も、元気そうだな」


ココを真ん中にして、三人は屋敷へ入っていった。

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