第082話|ココ編【……私も、同じ】
ココは地面を見つめたまま、動かなくなった。
「……トール様……」
パックは視界の端で、動かなくなったココを捉えた。
一瞬の静寂。
ハッと我に返った。
そして静かに、優しくココの肩へ触れた。
ココの肩が、わずかに跳ねた。
そして、パックを見た。
その表情を見たパックは、ココを包むことしかできなかった。
ココもまた、感情の行き場を失い、パックへ委ねるしかなかった。
アーラも同じように、感情の行き場を失っていた。
だが、二人と明らかに違うのは、それが“喪失感”ではなく、“怒り”だったことだ。
自らも召喚の被害を受けた。
同胞を壊され、奪われ、その骨までもが利用された——
仇を討つためだとか、種族のためだとか。
そんな大層な理由を語るつもりはなかった。
今、目の前にいる仲間たちが苦しんでいる。
それだけで、十分だった。
そして、この悲劇を終わらせるために戦うべき敵も、見えた気がした。
(……俺だけでは足りない……)
(この世界へ召喚された同胞の中に、“壊れていない”者が、俺以外にもいるはずだ……)
(……あの“雷”ですら、倒されたのだからな……)
アーラは、パックを見た。
(……小僧は……俺と行くしかないだろうな……)
(……守り切れるのか……)
そして、ココへも視線を移した。
(……この小娘も、かなり“危うい”……)
(……単独で動けば……“雷”の二の舞だ……)
パックへ視線を戻すと、パックがこちらを見ていた。
「……」
その目を見て、アーラは小さく鼻を鳴らした。
「……小僧。“考えは同じ”という顔をしているな……」
「……小娘に、釘を刺しておけ」
「一人で動けば、死ぬとな……」
パックは頷いた。
「……」
「……ココ、聞いて……」
ココの肩が動いた。
「……この件は、教団を相手にすることになる」
「一人で動くのは危険だから、慎重に行動してほしい」
「……僕は」
「——君を失いたくない」
「——!?」
ココが顔を上げた。
「……」
パックの目はどこか寂しげで、悲しみの色を含んでいた。
「……」
「……トール様は、知っていたの?」
パックが目を伏せた。
「……骨のことまで知っていたかは、分からない……」
「……だけど、教団が魔族たちを召喚していることには気づいていた……」
「……僕は魔族と話せる」
「教団にとって、邪魔な存在だった……」
「……だから、トールは守ってくれたんだ……」
「……トールが守った、この世界……」
パックは拳を握った。
「……僕は」
そして、空を見上げた。
「……争いのない世界を作りたい」
一筋の風が吹いた。
ココの翠の髪が揺れた。
「…………」
パックの袖を掴む手に、力が入った。
パックはココを見た。
ココは目尻を拭い、頷いた。
「……私も、そう願ってる」
「……これ以上、犠牲を増やしたくない……」
「……私たちで、作りましょ……」
「……平和を」
風が、優しく二人を包んだ。
「…………」
二人の音が、共鳴した。
アーラは何となく居心地が悪くなり、静かに後ずさった……。




