第081話|ココ編【……そんなことが、あって良いの?……】
———復興中の村
ココはその日、村に泊まった。
翌朝、目を覚ました。
見ていた夢の内容を反芻する。
パックと初めて会って以来、共鳴する夢をよく見るようになっていた。
嫌ではない。
むしろ、心地良い夢だった。
ベッドから出て、身支度を整えた。
屋敷を長く留守にしてはいられない立場だった。
今日は、王都へ戻る日。
だが、その前に寄る場所があった。
パックと情報を共有してから、帰るつもりだった。
いつもより、身支度に時間がかかった。
だが、食事に時間はかからなかった。
そして、はやる気持ちを抑えながら、馬へ跨った。
目指すは、リンゴ林。
ココは身体が軽く感じた。
———リンゴ林
アーラがパックを見た。
「……小僧。小娘が、こちらへ向かっている」
「——!」
パックが街道の先を見た。
「……小娘から軽い音がする。何か、進展があったのかもしれん……」
パックは街道の先を見たまま答えた。
「……そう。分かった」
「じゃあ、このまま待とう」
しばらくすると、街道の先に小さく砂埃が上がり始めた。
リンゴをかじっていたパックの動きが止まった。
「……来た」
アーラは周囲の気配を探りながらも、リンゴ選びに夢中になっていた。
ココが顔を上げた。
リンゴの香りが、次第に強くなってきた。
同時に、街道の先で手を振る人物が目に入った。
——心臓が一度、大きく動いた。
ココは身体を低くし、馬の速度を上げた。
近づくにつれて、心臓の音がうるさくなる。
自覚できるほどだった。
パックの笑顔が、目に飛び込んできた。
ココは驚き、一度リンゴの木を見てから、もう一度パックを見た。
「……おはよ」
パックがきょとんとした。
「……あ、うん。おはよう」
「……おはよう?」
ココの耳が赤くなった。
「……まだ昼前だから、おはようでしょ!」
「……悪い?」
パックが笑いながら、手を振った。
「……いや、悪くない。悪くない」
アーラが、ちらりと二人を見た。
鼻を鳴らし、さらに熟れたリンゴを探すため、その場を離れた。
パックが、選りすぐりのリンゴを差し出した。
「……はい」
ココは馬から降り、両手でリンゴを受け取った。
「……ありがとう」
ちらりとパックを見て、小さな口でリンゴをかじった。
蜜がたっぷり入っていて、また顎の奥がきゅうっと沁みた。
「……美味しい」
パックが歯を見せて笑った。
「でしょ?」
ココの耳が、さらに熱くなった。
「……うん」
目が合った。
優しい風が、ココの髪を揺らした。
「……」
安らぎを感じさせる、短い沈黙。
葉を揺らす静かな風の音が、二人を包んだ。
戻ってきたアーラが、パックへ釘を刺した。
「……わざわざ来たんだ。先に情報を聞け」
パックの肩が跳ねた。
「そっか」
「……それで、何か分かった?」
ココの耳はまだ赤かったが、声は落ち着いていた。
「……うん」
「……教団が、魔族の骨を回収していたみたい……」
パックが驚いた。
「……魔族の骨を?」
「——っ!?」
アーラの動きが止まった。
「……骨、だと?」
(……そういうことか……村から感じた気配は……“同胞の骨”だったのか……)
(……だとすると……同胞は、骨に引きつけられている?……)
「……」
アーラの声が、わずかに震えた。
「……小僧、落ち着いて聞け」
「……“壊れた同胞”は……その骨に引きつけられているのかもしれん……」
「——っ!?」
パックが目を見開き、アーラを見た。
「……なん……だって?……」
パックは、震える片手をもう一方の手で押さえた。
そして一度深呼吸してから、ココへ説明した。
「……アーラが……これは仮説だけど……」
「壊れた魔族は……その同胞の骨に……引きつけられているかもしれないって……」
ココの目も見開かれた。
「……ちょっと待って……骨に引きつけられてるって?……」
ココの中で、謎が一つずつつながっていった。
「……確か……魔族は……教団が召喚しているのよね?……」
ココの手が震えた。
「……そして、壊れた魔族は、骨に引きつけられるかもしれない……」
ココは両手で頭を押さえた。
「……だとしたら……教団が“骨”を村に仕掛けて……襲わせてる?……」
「…………!!」
パックの喉が、大きく動いた。
「……そんな……ことが……あって良いの?……」
「……たくさん死んだ……父さんも、母さんも……村人も…………」
パックは、大きく息を吸い込んだ。
「…………トールもっ!!」
「…………!!」
ココの呼吸が浅くなった。
そして、地面を見つめたまま動かなくなった。
「…………トール様…………」




