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第080話|ココ編【……私は、たぶん……】

ココは、リンゴ林をあとにした。


笑顔が元に戻らなかった。


弾む心。


満たされた時間。


だが、リンゴ林から離れるほど、後ろ髪を引かれた。


「……」


手には、リンゴの香りが残っていた。


ふと、気づいた。


パックと触れ合ったのは、拳だけ。


「……」


ココは無意識に、身体を起こしていた。


踵は落ち、手綱を持つ手に力が入っていた。


それに応えるように、馬は速度を落とした。


馬は迷った。


止まるべきか、と。


ココがハッとした。


「……」


気づくと、馬は歩いていた。


「……私、なんで……」


そして馬は止まり、ココは空を仰いだ。


「……」


手綱を離し、胸へ手を当てた。


強い鼓動が、手のひらへ伝わってきた。


ココは目を閉じ、深呼吸した。


「……」


まぶたに映ったのは、パックだった。


そして、ゆっくりと目を開けた。


「……」


ココは街道の先を見た。


両脚で馬の腹を挟み、踵を上げ、手綱を緩めた。


馬が歩き出した。


ココが体勢を低くすると、馬は駆け出した。


もう、迷いはなかった。


ココの耳には、力強い蹄の音だけが響いていた。


———復興中の村


ココが村へ到着すると、辺りは活気ある音で溢れていた。


静かに馬から降りた。


手綱を引き、人々の表情を見ながら歩いた。


ココは少し安心した。


そして、休憩中の村人へ話しかけた。


「……! 勇者様!」


「ありがとうございます。おかげさまで、復興に向けて村全体で頑張っております」


ココは胸が熱くなった。


頑張りが認められた。


そんな気分だった。


ポケットからハンカチを出し、目元を拭った。


村人はそんなココの姿を見て、もう一度頭を下げた。


そして、親指で自分の目尻を拭った。


ココは言葉を選びながら、村人たちから情報を集めた。


だが、返ってくる答えは変わらなかった。


無理もなかった。


村人たちは、逃げるだけで精いっぱいだったのだから。


ココは肩を落とした。


「……」


足取りが重くなった。


ふと、子どもたちの遊ぶ声が耳に入った。


勇者ごっこをしていた。


聖騎士役の子どもが、気になる言葉を口にした。


「……魔族の骨を集めろ!」


「——!?」


ココが身体を向けた。


一度深呼吸し、殺気を払った。


笑顔を作り、ゆっくりと子どもたちへ近づいた。


「……こんにちは」


子どもの一人が叫んだ。


「……ココ様だ!!」


子どもたちが騒ぎ始めた。


「本当だ! 勇者様だ!」


ココは、あっという間に囲まれた。


一人の小さな女の子が、ココへ抱きついた。


「……ココ様、ありがとうございました……」


「……あーっ、ずるいっ!」


別の子が嫉妬した。


ココの胸が、また熱くなった。


子どもたちから元気をもらった。


そして気を取り直し、本題へ入った。


聖騎士役の子どもへ尋ねた。


「……さっき、魔族の骨って言ってなかった?」


聖騎士役の子どもが答えた。


「……うん。聖騎士団の人たちが、集めて持って帰ってたから……」


「なんで? 変だった?」


ココは笑顔で返した。


「……そう。ちょっと気になったから、聞いただけよ」


「教えてくれて、ありがとう」


「……聖騎士団は、ほかに何か言ってなかった?」


子どもは腕を組み、首を傾げた。


「……んー、骨は全部持って帰るから、残さず出してって言ってたよ」


「……調べるんだって言ってた」


「でも……気持ち悪いから、触らなかったよ」


「ね?」


友達の方を向き、同意を求めた。


子どもたちは、一様に頷いた。


「……それよりさ、ココ様! 勇者様やってよ!」


「僕、トール様やるから!」


「えーっ! ずるいっ! 僕もトール様やりたい!」


「……私、ココ様やりたい!」


ココの顔に、笑みが溢れた。


「……じゃあ、みんなで勇者になろうよ」


「……それじゃ、面白くないよ!」


子どもたちが、一斉に笑った。


ココは、子どもたちと遊んだ。


勇者になる前、友達と遊んでいた頃を思い出した。


そして少しだけ、時間を忘れることができた。

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