第079話|ココ編【……やはり、この二人は……】
ココは、リンゴ林へ向けて愛馬を駆った。
気持ちがはやった。
ヘルというつながりを得られたことも大きかった。
これからは、戦場でなくてもパックとつながることができる。
それはココにとって、大きな前進だった。
そして、パックの方から連絡を取ってきた意味を考えた。
やはり、魔族が村を襲う理由についてだろうか。
今は、その問題が最優先だった。
何か進展があったのか。
考えを巡らせているうちに、目的地が近づいてきた。
それと同時に、胸が高鳴った。
ココは、不思議な感覚に気づいた。
目的は、謎を解くこと。
なのに、この胸の高鳴りは何なのか。
屋敷にパックがいた頃を思い出した。
目的は“保護”だったはず。
だが、毎日が弾んでいた。
その時の感覚に近い。
けれど、明らかに強くなっていた。
戦場で、もう駄目かと心が折れそうになった時。
パックを感じた、あの瞬間。
みなぎる力。
生への執着。
ココは戸惑った。
こんな感情は、初めてだった。
「……!」
やがて、風に乗ったリンゴの香りが、ココの鼻をくすぐった。
その甘い香りに、ココの感情が溶け、薄れていった。
そして、馬の蹄の音だけが街道をなぞっていった。
———リンゴ林
ふと、アーラが首を上げ、街道の先を見た。
パックが、その様子を見て尋ねた。
「……来た?」
アーラが、ちらりとパックを見た。
「……ああ、小娘だな。もうじき着くぞ」
言い終えると、ふっと息を漏らした。
(……小僧も小娘も、小賢しい)
(それに……先の戦闘で見せた小娘の強さ……目を見張るものがあった……)
(……俺が“役割”に徹する日は、近いかもな……)
(……それと、こいつらからは……ツガイの雰囲気がするんだが……言わない方が良いか……)
(……人間たちのことは、よく分からん……)
パックが口を開けたまま、街道の先をずっと見つめているのが目に入った。
アーラは、もう一度息を漏らした。
呆れながら、再び熟れたリンゴの実を探し始めた。
しばらくして、街道の先に砂埃が見えた。
白馬を駆る、小柄な少女。
次第に、馬の速度が落ちていった。
リンゴ林の手前で止まり、馬が一度いなないた。
「……戦場以外で会うの、いつぶりかしら」
その顔には、笑みが浮かんでいた。
パックが拳を差し出した。
ココはそれを見ると、馬から軽快に飛び降りた。
——コツン。
優しい音が、二人の耳をくすぐった。
「……喉が渇いたわ。私も食べようかな」
パックはリンゴを選りすぐり、慣れた動作でもぎ取った。
「……これ、美味しいと思うよ」
ココは半歩近づき、リンゴを受け取った。
「……ありがとう」
気持ちが跳ねた。
大きく口を開けた。
だが、一瞬だけ止まり、小さくかじった。
甘酸っぱくて、唾液が口の中に溢れた。
顎の奥がきゅうっと染みて、手で頬を覆った。
「……ほんとね! 美味しい!」
パックは得意げに、腰へ手を当てて軽く笑った。
「……」
少しの沈黙。
「……何か、掴めたの?」
ココの声が低くなった。
「……」
パックの顔から笑みが消えた。
「……いや、僕とアーラだけじゃ限界があって」
「……ココじゃないと駄目なんだ……」
パックは、ココを見た。
ココが頷いた。
「……話して」
パックは一度アーラを見てから、話し始めた。
「……前に、この近くの村で戦闘があったでしょ」
「“壊れた魔族”を倒したすぐあとに、アーラと近くを通ったんだ」
「……その時、アーラが“まだ同胞の気配がする”って言うから、こっそり夜に見に行ったことがあったのを思い出して……」
ココは瞬きもせず、静かに聞いていた。
「……結局、魔族はいなかった」
「“アーラが感じた気配”も、しばらくしたら消えちゃったんだ」
ココが、静かに息を吐いた。
「……その村を、もう一度調べてほしいのね?」
パックは、自信なさげに言った。
「……何も出ないかもしれない……それでも、お願いできる?」
ココは頷いた。
「……駄目元でも、調べる価値はありそうな気がするわ」
少し笑顔になった。
「……任せて」
「……魔族の気配がしたって言ったけど、もう少し説明がほしいわ」
パックが頷いた。
「……アーラが言うには、襲われる村から、いつもその気配がするって言うんだ……」
「——っ!?」
ココの目が見開かれた。
「……」
「……分かったわ」
「……」
「……でも、もっとリンゴが食べたいわ。選んでちょうだい」
「……」
パックの顔に、徐々に笑みが戻った。
「任せてよ!」




