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第076話|ココ編【……逃げない】

南部地方合同討伐作戦の結果は、次のように報じられた。


村はほぼ壊滅。生存者は教団によって保護された。


勇者ココと聖騎士団の奮闘により、魔族を退けた。


今後の復興については、教団が全面的に支援するとの発表があった。


教団関係者によると、復興資金への寄付を募っており、すでに各地から多くの寄付金が集まっているという。


「一日でも早く、被災者の支援に役立てたい」とコメントしていた。


———ココの屋敷


帰宅した翌日、ココは正装し、出かける準備をしていた。


交わした約束を果たすためだった。


鏡に向かい、丁寧に襟を正した。


突然、隊長の身体から体温が失われていく感覚が、フラッシュバックした。


「——っ」


思わず目をつむった。


ゆっくりと目を開けた。


鏡に映る自分の目を、じっと見つめた。


(……逃げちゃだめ……)


そして、手のひらを見つめた。


強く握りしめた。


その時、部屋の扉がノックされた。


ココが振り向いた。


「……よろしいでしょうか?」


執事長の声だった。


扉を開けた。


そこには、正装した執事長が立っていた。


目を細め、手を胸の前へ添えた。


「……本日は、私がお供させていただいても、よろしいでしょうか」


「——っ」


ココの下まぶたが、わずかに上がった。


込み上げてくるものを飲み込んだ。


「……うん。お願いね」


「……」


馬車に揺られる二人。


口数は少なかった。


ココはずっと、窓の外を流れる景色を見ていた。


父親と子どもが遊ぶ姿を目にすると、ハンカチで目尻を押さえた。


ココは御者へ言った。


「……ここからは、歩いていくわ」


隊長の自宅は、まだ見えていなかった。


ココは少し多めに息を吸い、馬車を降りた。


無言で歩いた。


その後ろを、執事長が静かについていった。


玄関の前で立ち止まった。


中から、子どもたちの騒ぐ声と、それを叱る母親の声が聞こえてきた。


ノックしようとした手が止まった。


「……」


手が震えた。


執事長は後ろからその姿を見ていたが、動かず、じっと待った。


「——っ」


ココは左手で右手首を掴み、震えを止めた。


「……」


扉をノックした。


「はーい」


母親の明るい声。


だが、ココの心臓の音が、その声をかき消した。


喉を鳴らした。


そして、扉が開いた。


母親は扉を開けたまま、動きを止めた。


目の前には、正装した二人。


まだ帰らない夫。


目の前に立つ二人の表情。


「……あ……」


言葉が詰まった。


母親の顔から、笑みが徐々に消えていった。


「……あ……あの……」


「——お父さん?」


子どもたちが、母親を押し退けた。


そして、ココの姿が目に入った。


「——ココ様!?」


「ココ様だ!!」


「えっ、なんで!? すごい!」


その場で跳ねる子どもたち。


母親は、子どもたちを叱るべきか、客を迎えるべきか、分からなくなっていた。


ココは子どもたちを見て、笑顔を作った。


そして、母親へ挨拶した。


「……突然、申し訳ございません」


「エリック隊長には、お世話になりまして……」


「……ご挨拶に、と」


ココは確認するように、執事長を見た。


執事長はすでに穏やかな笑みを浮かべており、そのまま一度だけ頷いた。


ココは子どもたちへ向き直った。


「……あのね、お母さんにお話があるの」


「ちょっと待っていてくれる?」


「えーっ、遊びたい!」


「遊びに来てくれたんでしょ?」


「……うん。あとで、遊んであげるから……」


「えっ、やった! じゃあさ、勇者ごっこやろうよ!」


「それいいね! じゃあココ様が、あとから助けに来るっていうのはどう?」


「それいい、それいい!」


執事長が後ろから声をかけた。


「では、お母さんたちのお話が終わるまで、こちらで遊んでいようか」


「分かった!」


「じゃあ、おじさんは“魔族”ね!」


「じゃあ僕、お父さんやる!」


「——っ!」


ココの肩が跳ねた。


母親はココの反応を見て、確信したようだった。


口に手を当て、込み上げるものを堪えていた。


ココは母親に案内され、奥の間へ通された。


子どもたちのはしゃぎ声だけが、温かい部屋に響いていた。

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