第075話|ココ編【……信じてた】
———戦場跡
蟻の魔族を討伐したあと、聖騎士団と協力して村人の捜索を行った。
だが、見つかるのは死体ばかりだった。
最後に残った、崩壊した家屋の捜索を終え、合同討伐作戦は打ち切られた。
隊長代理が、ココへ話しかけた。
「我々は、一度王都へ戻ります。おそらくですが、復興は教団が行うものと思われます」
「馬車の用意がありますが、勇者様はいかがなさいますか?」
ココが笑顔で答えた。
「ありがとう。馬で来ているから、大丈夫よ」
隊長代理が、周囲を見渡した。
「馬……ですか。どちらにつないであるのですか?」
ココは、馬から降りた方角を見た。
「つないでいないわ……でも、戻ってくると思う」
隊長代理が驚いた。
「……左様、でございますか……さすがです」
「……では、我々はこれにて失礼いたします」
そう言って敬礼すると、訓練された動作で踵を返した。
聖騎士団が撤退していく。
ココは一人、村に残った。
喪失感に襲われた。
救えなかった命。
散っていった兵士たち。
そして、泣いた。
一人だったが、声は殺した。
肺が何度も跳ねた。
ようやく落ち着いた頃、背後に覚えのある気配を感じた。
振り向くと、ココの愛馬が立っていた。
ココは両手で涙を拭った。
「……戻ってきて、くれたのね」
馬は、ココの頬へ顔を寄せた。
———上空
アーラが反響音を捉えた。
「……村には、小娘一人だな」
「降りるぞ」
ココは、何かが近づいてくる気配を感じた。
空を見上げた。
光を遮るように、手をかざした。
大きな翼が太陽を遮った。
その背には、人の影。
気持ちが反転した。
今度は、心臓が跳ねた。
戦闘中に感じた、パックの存在を思い出した。
あれは、パックだったのか。
すぐにでも確認したかった。
気持ちがはやった。
アーラが大きく羽ばたき、着地した。
ココは少しずつ足を速めた。
抱きしめてしまいそうになり、少しだけ足を緩めた。
パックが、アーラの背から飛び降りた。
ココの姿が目に入った。
「——っ!!」
ぼろぼろだった。
服は裂け、血が滲み、顔は泥だらけだった。
よろけながら、つまずきながら、それでも走ってくる。
パックは胸が詰まった。
両手で、ココの身体を支えた。
「……こんなになるまで」
それ以上、言葉にできなかった。
だが、ココはそれどころではなかった。
パックを見た。
「……途中で、奇跡が起きたの」
「あれは、パック?」
焦りすぎて、自分でも何を言っているのか整理できていなかった。
だが、伝わった。
「……僕は、助けに行けなかった」
「だから、精霊たちにお願いしたんだ」
「間に合って、良かった」
パックの服を掴むココの手が震えた。
「……やっぱり、そうだったんだね」
「私……勝ったの……勝てたのよ……」
ココの膝から力が抜けた。
パックが支え、ゆっくりと座らせた。
震えるココの身体が、小さく見えた。
パックの手が、自然に動いた。
そっと、抱きしめた。
ココの身体から、力が抜けていった。
ココはそのまま、離れなかった。
「……」
アーラは、二人が発する不思議な音を感じ取っていた。
その波長は、揺らぎさえも同期していた。
「……」
そしてそのまま、二人を見守った。




