第074話|ココ編【……終わった……】
——ココ隊
数の波は、確実に弱まっていた。
だが、人間側もまた、体力の限界を迎えつつあった。
敵も味方も、弱っていた。
狂気と気力のぶつかり合いは、終わりを迎えようとしていた。
兵士たちは槍を握り直した。
互いに声をかけ合った。
「……ダメそうなら言え」
「運ぶ体力は残ってる」
「……お前もな」
「索敵班の情報では、あと少しだ」
「……振り絞るぞ」
ココも肩で息をしていた。
だが、ココの中にはパックがいた。
(……三……二……一……)
短くなった再構築時間が終わる。
ココの身体が、雷を帯びた。
それは、兵士たちにとって希望の光だった。
残像が残る。
速度は落ちていた。
だが、兵士たちにとって、速さはもう関係なかった。
ココの輝く背中を見て、槍を握り直した。
そして、“赤く光る、黒い津波”は、最後の波となった。
全員が歯を食いしばっていた。
残された力を、すべて振り絞った。
最後の蟻の魔族を、ココが蹴りつけた。
そして、数人の兵士がとどめを刺した。
——。
音がやんだ。
凪。
ココの身体から、雷が静かに消えた。
勝利の雄叫びはなかった。
兵士たちは皆、その場に膝をついた。
ココもまた、大地へ手をついた。
一筋の風が、ココの髪を静かに揺らした。
誰も動けなかった。
限界など、とうに超えていた。
全員をつないでいた糸が、静かに解けた。
兵士たちの表情は、晴れやかだった。
やがて自然と涙が溢れ、乾いた大地を濡らした。
——教団本部
サンデル司教は、金で装飾された聖杯をくるりと回し、果実酒の香りを愉しんでいた。
そして、口に含む。
鼻へ抜ける芳香を味わったあと、ゆっくりと飲み干した。
扉がノックされた。
サンデル司教が、優しく言った。
「……入れ」
側近が静かに入ってきた。
「“南部地方、合同討伐作戦”の被害予測と見積書です」
書類を差し出した。
サンデル司教は、それを受け取った。
「……」
「……今頃は、戦闘中か?」
側近が答えた。
「……おそらくは」
サンデル司教が、優しく言った。
「村の復興費用は、教会ですべて出すと報道しなさい」
「……そして、寄付を募る。分かるね?」
側近が目を伏せた。
「……はい」
サンデル司教は、聖杯をくるりと回した。
「……下がって良いぞ」
「……はい」
側近は、音を立てずに扉を閉めた。
——森の中
アーラが急に首を上げ、村の方角を見た。
パックが反応した。
「——っ! どうなった?」
アーラは、そのままの体勢で答えた。
「……終わった」
「……」
パックが喉を鳴らした。
「人間たちが残った。小娘も無事だ」
パックは、その場へへたり込んだ。
「……そっか。良かった」
アーラは、村の方角を見たまま動かなかった。
(……あの数を倒すか、小娘)
(人間たちも、侮れんな……)
パックが顔を覗き込んだ。
「……何考えてる?」
アーラは目だけを動かし、パックを見た。
「……何でもない。もう少し様子を見るか?」
「俺はリンゴが食べたいが……」
パックが肩をすくめた。
「……ココが心配だよ。あとで戻ってくれるなら、付き合う」
アーラが屈んだ。
「乗れ」
パックが、その背へ飛び乗った。
アーラは空へ飛び立った。
そして、ココたちの戦いを思い出した。
(……しかし、小僧の支援は無尽蔵だな……)
(敵でなくて良かった、といったところか……)




