第070話|ココ編【——っ、助かる!】
——上空
アーラが顔をしかめた。
(……なんだ、この数は)
(人間たちも群れだな。だが、消耗している……)
(……小娘も、その中か)
パックが心配そうに尋ねた。
「ココは? 一人で戦ってるの?」
アーラは返答に迷った。
「……いや、一人ではない。群れで応戦している」
「小娘は無事だ。心配ない」
アーラは、それ以上何も言わなかった。
パックが違和感を覚えた。
「……それだけ?」
アーラは、パックの勘が鋭くなってきたことに困っていた。
「……何がだ?」
パックが、アーラの目を覗き込んだ。
「……何か隠してるでしょ」
アーラがため息をついた。
「落ちるぞ? やめろ」
そして、本題から話をそらした。
「雷と戦っていた兵士が、大勢いる」
「ここには降りられん」
「救援は無理だ。戻るぞ」
パックが慌てた。
「待って、待って。少し離れた場所に降りよう。それなら良いでしょ?」
アーラが、またため息をついた。
「……仕方ないな」
旋回し、降りられる場所を探した。
そして、パック一人では渡れない川の向こう側へ降りることにした。
「降りるぞ。掴まれ」
———別働隊
隊長が槍を構えた。
「来るぞ」
二体の蟻の魔族が顎を広げ、襲いかかってきた。
隊長が中央。
二人が右翼、もう二人が左翼へ展開した。
蟻の魔族は、どの兵士を追うか迷った。
二体の進路が交差し、互いにぶつかった。
一瞬の隙。
右翼と左翼から、槍が伸びた。
それぞれの蟻の魔族の複眼を突いた。
隊長が、蟻の魔族へ言い放った。
「これで、負傷五だな」
その場にいる五体すべてが、片方の複眼を潰されていた。
残った目も塞げば、かなり戦いやすくなる。
だが、油断はできなかった。
いつ、イレギュラーが起こるか分からない。
先ほど命を落とした兵士のように——
隊長は、頭に浮かんだ映像を振り払った。
「一体ずつだ。行くぞっ!」
中央に位置していた隊長が前へ出た。
二体の蟻の魔族に残された複眼を、立て続けに潰した。
「距離を取れ!」
視界を奪われた蟻の魔族は、触角だけが頼りとなる。
触角に触れられなければ、こちらの位置を特定されることはない。
残る三体は、片目を潰した個体が二体。
片目を潰され、脚を負傷した個体が一体。
片目の二体とは、まだ少し距離があった。
「まずは、この二体だ」
兵士たちは触角に触れないよう、側面から槍を突いた。
疲労のせいか。
それとも、血で手が滑ったのか。
兵士たちの狙いが狂った。
ただでさえ、動く標的へ正確に槍を当てるのは難しい。
三本は甲羅に弾かれ、一本だけが隙間を貫いた。
「……くっ!」
槍を弾かれた兵士の一人が、思わず声を漏らした。
隊長は、別の個体へ目を向けた。
片目を潰した二体が、こちらへ向かってきていた。
「距離を取れ! 片目の二体が来る!」
「残った目を潰すぞ!」
終わりが見えなかった。
その現実が、極度の疲労感につながっていた。
限界など、とうに超えている。
生き延びるという執念だけで、戦い続けていた。
そして、わずかな幸運が訪れた。
二体が並んだ時、残っている目は、どちらも外側にあった。
兵士たち全員が、そのことに気づいた。
槍を握り直した。
隊長が中央。
右翼に二人、左翼に二人。
隊長が引きつければ、左右から残った目を狙える。
隊長が前へ出た。
間合いを詰める。
蟻の魔族が動いた。
速い。
だが、動きを予測していた隊長は、ぎりぎりで避けた。
そして——左右から四本の槍。
命中した。
槍は確実に、二体に残された複眼を貫いた。
あとは慎重に対処すれば、危険は少ない。
兵士たちは、ほんの少しだけ安堵した。
その時——
一人の兵士の視界の端に、こちらへ向かってくるココ隊の姿が飛び込んだ。
胸が高鳴った。
——助かる。
兵士は、ココ隊に目を奪われた。
「隊長! ココ隊が——」
そう言いかけた瞬間、横から突き飛ばされた。
突き飛ばしたのは、隊長だった。
兵士の視界に、蟻の魔族の顎が迫っていた。
蟻の魔族から目を離した、ほんの一瞬。
触角が、兵士のつま先に触れていた。
そして——
蟻の魔族の顎が閉じた。
——ガキン。
兵士と隊長が、地面へ倒れ込んだ。
兵士が目を開けた。
隊長は、手で脇腹を押さえていた。
その指の間から、血が滲んでいる。
出血が止まらない。
目を凝らすと、傷は脇腹からへその近くまで達していた。
「——っ!!」
「隊長っ!!」




