第066話|ココ編【……助け、られなかった……】
ココは風魔法で飛んだ。
そして、飛びながら詠唱。
“軽い”水魔法。
オーブが青く輝いた。
子どもと蟻の魔族の間に着地する。
——氷魔法、発動。
蟻の魔族の脚を凍らせ、動きを止めた。
すかさず、父親の方へ振り向く。
オーブは翠。
構えたココの目が見開かれた。
蟻の魔族が、父親の胴体に噛みついていた。
直後——
父親に噛みついていた蟻の魔族の顎が、閉じた。
ココはすかさず、子どもの目を塞いだ。
父親は子どもの無事を見て微笑んでいたが、そのまま上半身だけが大地に転がった。
そして、父親の目から次第に光が消えていった。
ココは歯を食いしばった。
オーブが翠に光る。
蟻の魔族を狙っていた突風を、自分へ当てた。
子どもを抱きかかえたまま、後方へ飛んだ。
周囲にいる蟻の魔族の動きを確認した。
一匹は、片側の脚を二本折っている。
もう一匹も、まだ氷で足止めできていた。
だが、子どもの安全が最優先だと判断した。
ココは、一時退避することにした。
村の外れまで来ると、先ほど助けた村人が戻ってきていた。
ココが声をかけた。
「この辺りはまだ危ないから、早く遠くへ逃げて」
その時、抱きかかえていた子どもが叫んだ。
「お母さん!」
「——えっ」
ココが驚いた。
先ほど助けた村人は、子どもの母親だった。
ココが子どもを下ろすと、二人は抱き合った。
二人とも泣いていた。
母親はふと、何かに気づいた。
子どもを抱いたまま、ココを見た。
ココは首を横に振った。
母親の目から、さらに大粒の涙が溢れた。
「……この場所はまだ危険よ。早く遠くへ逃げて」
ココは避難を促した。
母親はよろめきながら立ち上がり、子どもを連れて逃げていった。
ココは親子の後ろ姿を見ながら、先ほどまでの連続戦闘から、何かヒントのようなものを得ていた。
“軽い魔法の連続詠唱”
そして、以前トールに見せてもらった“雷の応用”。
ココは、光属性の“弱い雷魔法”なら扱えた。
それらが、一本の線でつながった。
(……試してみよう)
その時、街道の向こうに砂埃が見えた。
聖騎士団が到着した。
それも、かなりの人数が投入されていた。
その隊列の規模は、この戦闘の過酷さを裏づけているようだった。
隊長が、ココの前で跪いた。
「勇者ココ様。聖騎士団、ただいま到着いたしました」
ココは早速、敵の情報を共有した。
「魔族の種類は、“蟻”よ」
聖騎士団がどよめいた。
“蟻”と聞き、肩透かしを食らったようだった。
ココはそのまま続けた。
「“蟻”といっても、大きさは大型犬ほど。硬い甲羅を持っているわ。そして、見た目よりも動きが速い」
「攻撃方法は、大きな顎による噛みつきよ」
「……噛みつかれたら最後。真っ二つにされるわ」
「そんな敵が、伝令文書に記された数だけいるってこと」
「気を抜くと、死ぬわ」
聖騎士団は一変して、静まり返った。
ココはさらに続けた。
「弱点は……まだ掴めていない。でも、関節部への攻撃は比較的有効よ」
「脚の関節を狙って、動きを鈍らせるのが良いと思う」
聖騎士団がざわついた。
隊長が頭を下げた。
「敵の情報、ありがとうございます。探りながら戦えば、必ず被害が出る。助かります」
隊長は振り返り、聖騎士団へ向き直った。
「勇者様の話を聞いた者は、後列まで確実に伝達しろ」
「貴様ら……勇者様の足を引っ張るなよ? 良いな」
「ハッ!」
兵士たちの声が揃った。
ココは最後に告げた。
「これから、大切なことを言うわ。聞いて」
全員が静まり、ココに注目した。
「さっき、逃げ遅れた村人を救助したわ。……助けられなかった人もいた」
「目的は、“掃討”じゃない。村人の救助が最優先よ。忘れないで」
「ハッ!」
先ほどよりも、大きな声が返ってきた。
「……以上よ。敵は手強いわ……気をつけて」
「そして……みんなで無事に、家族のもとへ帰りましょう」
一瞬の静寂。
「……」
兵士の一人が、思わず口を挟んだ。
「……勇者様、それは縁起でもありません」
張り詰めていた兵士たちから、笑いが漏れた。
士気が上がった。
ココは振り返り、砂埃の舞う村を見据えた。




