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第065話|ココ編【……津波!?】

——王都から南方面へ向かう街道


ドドドッ、ドドドッ


規則正しいリズムで、蹄の音が街道をなぞっていく。


大柄な白馬の背には、小柄な少女が乗っていた。


その馬は幾つもの戦場を経験してきたが、決してココのもとを離れなかった。


それは、命令や調教による忠誠心だけではなかった。


ココの人柄に、馬自身が惹かれていたからだ。


ココもまた、自分を慕ってくれるその愛馬が大好きだった。


「……ごめんね、無理させて」


出発してから走り詰めで、速度もいつもより速かった。


街道は、緩やかな上り坂が続いていた。


両脇に生える木々がまばらになり、少し開けた場所に出た。


小高い丘の先から、馬の蹄とは違う、地鳴りのような音が聞こえてきた。


ココが丘の頂上へたどり着いた時、音とともに、異様な光景が視界へ飛び込んできた。


村を襲う、おびただしい数の赤い光。


ギギギ……という耳障りな音。


「……なに……これ……」


ココは目を凝らした。


村を襲う異形の正体。


大型犬ほどの大きさをした、蟻に似た魔族の群れ。


その目は赤く光り、狂気に満ちた大群が村へ押し寄せていた。


“赤く光る、黒い津波”


その光景を見たココは、そう思った。


背筋に、嫌な感覚が走った。


そして村は、徐々にその津波へ飲み込まれようとしていた。


「——させないっ!」


ココは手綱を緩め、両脚で馬の腹を挟んだ。


馬は一度首を後ろへ引き、前へ突き出すと同時に駆け出した。


ココは体勢を低くした。


風が、ココの翠の髪を浮かせ、なびかせた。


蹄の音が、背後に置いていかれる。


「あまり近づくと危険だから、この辺で良いわ」


馬は速度を緩め、村から少し離れた場所で止まった。


「危なくなったら逃げるのよ? 分かった?」


いつものように手綱は結ばず、馬の首を撫でた。


馬は一度だけ、いなないた。


ココは村を見た。


異常なほどの砂埃で、村全体が霞んでいた。


「……」


「……無傷、は、無理そうね……」


ココは下唇を噛んだ。


(トール様……私に、力を……)


一筋の風が、ココの髪を揺らした。


ココは村へ向かって走った。


近づくほど、不気味な音が耳を突く。


そして——悲鳴。


「——っ!!」


「逃げ遅れた人が!?」


悲鳴のする方へ、進路を変えた。


声が近くなっていく。


ココは走りながらオーブを取り出し、構えた。


オーブは翠に輝いていた。


家屋の角を曲がった。


視線の先に、倒れた人。


そして、その向こう側。


——蟻の魔族。


硬い甲羅のような表面が、黒く鈍い光を反射していた。


赤く光る複眼からは、視線の向きが分からなかった。


ココは、全身に鳥肌が立つのを感じた。


頭部から突き出した巨大な顎を擦り合わせ、不快な音を立てていた。


「——くっ!」


オーブを構えた。


どんな攻撃が通じるのか、分からなかった。


ウインドカッターを詠唱しかけたが、硬い甲羅を見て術式を切り替えた。


攻撃ではなく、突風で引き離す。


人命救助を優先した。


オーブが光った。


突風が蟻の魔族に直撃した。


蟻の魔族は後方へ吹き飛んだ。


だが、ダメージはなかった。


ココはすぐさま、倒れていた村人を引き起こした。


「走れる?」


村人は何度も頷いた。


ココは逃げる方向を指した。


「あの建物の角を曲がって、真っ直ぐ走って」


「私はあっちから来たから、大丈夫」


村人はつまずきながら、走っていった。


——次の悲鳴。


「——っ!!」


今度は、二人分だった。


先ほど吹き飛ばした蟻の魔族が、起き上がった。


戦っている暇はなかった。


救助へ向かおうと走り出すと、起き上がった蟻の魔族が追ってきた。


六本の細く長い脚は、予想以上の速さだった。


顎を大きく開き、一気に間合いを詰めてくる。


ココは走りながら後ろを向き、オーブを構えた。


オーブが、金色に輝いた。


大地から、無数の小石が浮かび上がる。


それらを、蟻の魔族へ向けて放った。


無数の小石が、高速で蟻の魔族へ浴びせられた。


予想はしていたが、甲羅に当たった小石は弾かれた。


だが、そのうちの二発が、脚の関節部へ命中した。


蟻の魔族の片側の脚二本を、へし折った。


バランスを崩し、動きが鈍った。


だが、倒せてはいない。


ココは次に、再構築の早い“軽い”風魔法の詠唱に入った。


オーブが翠に輝いた。


そして、突風を自分自身へ当てた。


ココの身体が、悲鳴の方向へ吹き飛んだ。


くるりと回転し、着地した。


目を向けると、倒れている子どもと、助けようとしている父親らしき人物。


二人へ同時に、別々の蟻の魔族が襲いかかっていた。


「——っ!!」


ココの背筋が凍った。


一瞬の判断。


オーブは再び、翠に輝いた。

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