第062話|ココ編【……覚悟を決めたはずなのに……】
ココのオーブが震えた。
さらに、輝きを増した。
ココは、繋いだ手から流れ込んだ何かが、身体の中心を通り、全身へと広がっていくのを感じた。
そして、オーブが色を変え始めた。
“光の白”
“水の青”
二つの色が混ざり合い、渦を巻いた。
亀の魔族の身体が、淡く輝いた。
苦悶に歪んでいた表情が、和らいだ。
そして、鳴き声が止んだ。
だが、その光景こそ、最も残酷だった。
亀の魔族は、ゆっくりとマグマに飲み込まれていった。
その光景を目の当たりにした三人の中に、耐えられなかった者がいた。
——それは、使命を受け入れたはずのココだった。
肩を震わせ、大粒の涙を流していた。
ココの異変に最初に気づいたパックは、繋いだ手に優しく力を込めた。
手から伝わる優しさに、ココの心が折れた。
肩を縮ませた。
声が漏れた。
そして、ココはパックの胸で泣いた。
パックは手を繋いだまま、もう片方の手を優しく肩に添えた。
アーラは二人の音を感じ、亀の魔族を少しだけ羨ましく思った。
自分にも最後があるとしたら、二人はここまで感情をあらわにしてくれるのか。
アーラには、まだ自信がなかった。
だからといって、二人に下手に出るほど、自分を過小評価してはいなかった。
そして、ココの様子を見てため息をついた。
「……小僧、小娘に言ってやれ」
「……お前の涙で、同胞は救われた——とな」
パックはココを抱きしめながら言った。
「……ねぇ、ココ」
「……アーラが言ってる」
「……ココの涙で、あの魔族は救われたって」
ココは肩を震わせたまま、一度だけ頷いた。
やり場のない感情を、涙で洗い流す方法しか見つからなかった。
やがて、ココのオーブからゆっくりと光が消えた。
そして、辺りは静寂に包まれた。
ココのすすり泣く声だけが、パックの耳にいつまでも残っていた。
パックが憤った。
「……こんなことが、いつまで続くんだ……」
「……だが——妙だ」
アーラの中に、ひとつの疑問が浮かび上がった。
「……同胞が、人間の集落に向かう理由が分からん」
「……こいつは、草食性の同胞だ」
「……人間を襲う理由がない……」
パックがアーラを見た。
「……それって、どういうこと?」
アーラが続けた。
「……言葉の通りだ。さっきの同胞は、人間を襲うはずがない」
「……人間を、襲うはずがない?」
パックが、アーラの言葉を繰り返した。
ココの泣き声が止まった。
「……どういう、ことなの?」
パックが通訳した。
「……さっきの魔族は草食性で、人間を襲うはずがないって、アーラが……」
ココの目が見開かれた。
「——!」
「……何ですって?」
「……でも、我を失っているんでしょ?」
パックはココに向き直った。
「……うん」
「……でもね、村に向かっていたことに違和感があるって、アーラが」
「……村の人に、話を聞いてみるのが良いかも……」
「……」
ココは頬の涙を拭った。
「……分かったわ」
「二人は待ってて」
三人はリンゴ林で落ち合う約束を交わした。
そして、パックとアーラは飛び去っていった。




