第054話|ヘル編【私が、守る】
———王都
パックが屋敷を出て間もなく、教団から派遣されてきた使用人に動きがあった。
その目的は、パックの部屋と屋敷の倉庫を捜索することだった。
だが、パックは“痕跡”を消す術をトールから教わっていた。
パックの部屋からは、何も出てこなかった。
屋敷の倉庫も執事長が管理しており、怪しい物は保管されていない。
問題なのは——
ココの部屋に保管されている、“トールのナイフ”だった。
トールの生前、ココは彼と何度か顔を合わせていた。
だが、“譲り受けた”という説明をするには、ナイフがかなり使い込まれており、二人の関係を考えると少し不自然だった。
決定的な証拠ではない。
それでも、教団に“疑念”を抱かせることになる。
——それは、避けるべきだった。
パックの部屋と倉庫から何も出てこなかった以上、使用人は捜索の手を広げる必要があった。
だが、執事長の管理に隙はなく、捜索は難航していた。
使用人はココの部屋の前で、左右を確認した。
そして、ドアノブに手を伸ばした。
———その時
廊下の角から、声がかかった。
使用人の手が止まる。
声の主は、執事長だった。
「ココ様の部屋は、許可された者以外は入れませんよ?」
「……ココ様は留守中のはずですが、何かご用ですか?」
使用人の声がうわずった。
「部屋の掃除を、と思いまして。知らずに失礼いたしました」
「……」
執事長は、その場で沈黙した。
ただ、目だけは一切そらさなかった。
使用人は軽く頭を下げ、ココの部屋を後にした。
廊下の角を曲がるまで、背中に視線を感じていた。
——この一件を知ったココは、それ以来、トールのナイフを手放さなくなった。
結局、ココの屋敷からは何も出てこなかった。
やがて捜索は打ち切られ、派遣されてきた使用人は静かに姿を消した。
だが、それは疑いが晴れたことを意味しなかった。
極めて小規模ではあるが、教団は“ココの屋敷にいた少年”の捜索に乗り出した。
———街道を進む馬車
ヘルは、またパックに小言を言った。
「なあ、その高そうなナイフだけどよ。あんまり他人に見られないようにしろよ?」
「金持ってるって思われると、面倒だからよ」
パックは素直に聞き入れた。
「うん、分かったよ」
そう言って、上着に隠れる位置へナイフを着け直した。




