第051話|ヘル編【良いもん食わしてもらうぜ?】
ヘルは星を見上げた。
「パック、お前、知らなそうだから教えてやる」
「あのな、俺たち行商人は——あの星を目印にしてる」
北の空を指差した。
「あの星はな、あそこから動かねぇ」
「迷っても、あれ見りゃ戻れる」
「……」
パックは何も言わなかった。
その星を、すでに知っていた。
同じことを、昔——教えてくれた人がいる。
パックはもう一つ、星を探した。
それは“雷神の星”だった。
———翌朝
ヘルは目を覚ますと、熟睡していたことに気づいた。
ヘルはぞっとした。
野宿は危険が伴う。
だから、眠りが浅くなるのは普通のことだった。
パックを見ると、すでに起きていて、焚き火に枯れ枝をくべていた。
「……あ、おはよう」
緊張感がない。
ヘルはパックの朝の挨拶に気が抜けた。
ヘルは頭を掻いた。
「……調子狂うぜ」
次の瞬間、ヘルは目を疑う。
——パックが木の枝を齧っていた。
「……お前、何してんだ?」
パックが口を拭う。
「歯磨きだよ」
ヘルが同情する。
「……お前、苦労してんだな」
パックが別の枝をヘルに渡す。
「やってみる?美味しいよ」
ヘルが“美味しい”に反応する。
「……何だと?」
半信半疑で、枝を受け取り、異常がないかぐるりと確認する。
そして、意を決して齧った。
「———!!」
「……何だこれ、美味ぇ……」
パックが笑った。
「歯茎が腫れにくくなるよ」
———出発前
パックが焚き火の跡を丁寧に片付けていた。
ヘルは少しだけため息をついた。
「……火種は消したし……そのままでいいだろ」
パックが焦る。
「ごめん、すぐ終わるから」
灰を埋めて痕跡を消した。
トールの教えだった。
そして、ヘルの馬車に飛び乗った。
馬車が一定のリズムでのんびり進む。
その音だけが響いていた。
ヘルは前を向いて、黙ったまま手綱を握っていた。
パックの野営の知識、立ち居振る舞い、そして所持金の多さ。
考えるほど、釣り合いがおかしかった。
「……なぁパック、お前、何者なんだ?」
パックが返答に困る。
「……戦災孤児だったんだ」
「……良い人に助けてもらって」
パックは空を見上げた。
「——でも、旅に出なきゃいけなくなったんだ」
「……このお金は、その人が持たせてくれたんだ」
「必要になるからって」
ヘルはそれ以上聞かなかった。
同時に、金を奪わなくて良かったとも思った。
「———だったらさ、なおさらその金、大事に使えよ」
「すぐに他人を信用するな」
「……痛い目みるのは自分なんだからよ……」
パックは頷いた。
「……わかった、ありがとう」
丘の上まで来ると、遠くに村が見えてきた。
ヘルが伸びをした。
「……パック、“奢り”の件、よろしく頼むぞ」
——ヘルの鼻歌が街道をなぞっていった。




