第050話|ヘル編【……コイツ、何者だ?】
行商人が素の顔になる。
「俺は“ヘル”、お前は?」
パックが右手を差し出す。
「パックスだよ。パックって呼んで」
ヘルは差し出された右手を見る。
「……パック、ね」
(……もう少し警戒しろっての)
そして、握手した。
顎で合図する。
「乗っていいぞ、でもな“ただ”じゃねぇぞ?後で請求するからな」
パックが笑顔になる。
「わかった、ありがとう」
交渉は成立したが、ヘルは納得いっていない。
「……おい、いくらか聞かねえのか?」
パックがポンと手を叩く。
「そっか、いくらなの?」
ヘルはやはり、納得いかない。
「……後で、請求する」
「……」
「次の町で、飯奢ってくれよ」
「よろしくな、パック」
パックが不安そうに財布を見る。
「……足りるかな」
「足りるだろ!」
ヘルが思わず突っ込んだ。
「……はぁ」
しばらくの沈黙。
「……お前、出身どこよ?」
パックの顔が曇る。
「……僕の村は、もう無いんだ」
——“無くなった村”を知らない大人はいなかった。
「……」
「……そうか、すまなかったな」
「……じゃあ、“翼の魔族”は……仇、なのか?」
「……」
パックは答えられなかった。
ヘルは勝手に察した。
「……聞いて悪かったな」
そして、話題を変えた。
「お前、剣は使えるのか?」
パックは肩をすくめた。
「……少しだけ」
ヘルは前を向いた。
「……少し……か」
「……魔族なんざ、全部クソだがな」
「……悪いことは言わねえ。仇討ちは、やめとけ」
「……ろくな終わり方、しねぇぞ……」
パックは俯いた。
「……うん」
ヘルが西の空を見る。
「……今日は野宿だな」
ヘルは、これから一緒に野宿する相手が、大金を持っていることに気づく。
大きく喉を鳴らした。
きょろきょろと辺りを見まわした。
ヘルは恐る恐る確認した。
「……お前、その金、誰かに見せたことあるか?」
パックが首を振る。
「無いよ。なんで?」
ヘルは、ちょっとイラっとした。
「なんで?じゃねえよ……ったく」
「財布、もう一個売ってやるから、その金、分けて持てよ」
パックが素直に頷く。
「その方がいいなら、そうするよ」
ヘルが溜め息をつく。
「そういうとこだぞ?……お前」
パックが慣れた手つきで、火を“すんなり”とおこす。
“誇り高い火”のおかげだ。
それを見たヘルが感心する。
「……大したもんだな」
「……でもよ、なんかさっきから……不穏な気配がしねえっつうかさ」
「……いつもと違うんだよな……」
「……獣の気配もねぇし、お前、トール様の護符とか持ってるのか?」
パックは少しだけ目を伏せて、苦笑いした。
ヘルは皮肉を言った。
「……俺には買えねぇ代物だがな」
———パックの野宿は、精霊たちが全力で守ってくれていた。
ヘルがそれを、知ることはなかった。




