第049話|ココ編【……変なのに、声かけちまった……】
王都へ“入る”のは一筋縄ではいかないが、“出る”のは簡単だった。
門番も、去る者には“守りの手”は差し伸べなかった。
パックは王都を見渡せる高台まで来た。
ココのナイフに触れる。
一度振り返る。
「……ココ、ありがとう」
屋敷を出る前に、執事長から“旅の必需品”を渡されていた。
パックは力強い足取りで、王都を後にした。
パックの向かう先は“北部方面”だった。
“アーラ”の言葉を思い出す。
「……また、ここに来れば会えるだろ」
目指すは約束の場所。
リンゴ林。
やがて、太陽が天頂から傾き始める。
パックは木陰の岩に座って干し肉を齧っていた。
すると、行商人の馬車が目の前を通りかかった。
行商人は、身なりの貧しい少年を一瞥する。
だが、通り過ぎようとした時、腰に着けたナイフに目が止まる。
(……上等なナイフだな……刻印入り?)
(金を持っていそうには見えないが……)
(……一応、声かけてみるか)
「こんにちは、一人旅ですか?」
パックが顔を上げた。
「……こんにちは」
行商人は続ける。
「どちらまで行かれるんですか?」
パックが返答に困る。
「……えっと、北部方面……です」
「北部方面ですか。今、向こうは“翼の魔族”が出ますから。気をつけてください」
「——!!」
パックが“翼の魔族”に反応する。
「ちょうど良い武器がありますが、ご覧に———」
行商人がそう言いかけるとパックが被せた。
「———“翼の魔族”を知ってるの?」
「知ってることを、聞かせてください」
行商人が気圧される。
「……」
「……ええ、もちろん知っています」
行商人はほくそ笑む。
「……ですが、私は商人なので“ただ”で教えるわけにはまいりません」
パックの腰のナイフを見る。
行商人は安物のナイフを差し出す。
「そちらのナイフと私のナイフを交換していただければ、お教えしましょう」
「——えっ」
パックの動きが止まる。
ナイフを大事そうに手で覆う。
「……これは、ダメなんだ」
「お金なら持ってるよ!ほら」
じゃらっと音をさせて巾着を見せた。
行商人が驚く。
「———!!」
(……こいつバカか?有り金全部見せるやつがあるか)
(しかし、“翼の魔族”への食い付きが異常だな……“仇”か?)
(……これは、カモれるな)
(……吹っ掛けてみるか)
「……はい、現金でも結構です」
「ですが、見たところ装備が少々心もとないかと……」
「装備品とまとめてお買い上げいただければ、お安くいたします」
「……いかがでしょうか?」
行商人が笑う。
「……ご予算は……いかほどでしょうか?」
パックが無防備に巾着を開く。
「———っ!!」
行商人は目を見開いた。
巾着の中身に聖金貨が見えた。
(……おいおいおい、マジかよ。貴族様のお忍びか?)
(……いや、喋り方がおかしい)
(……何なんだコイツは……)
パックが顔を上げる。
「……僕、計算が苦手なんだ。数えてくれる?」
そう言って巾着を差し出した。
「バカっ、やめろっ!!」
行商人は思わず口を押さえる。
パックが驚く。
「えっ、ダメ?」
行商人がイラつく。
「……そうじゃねぇ、今すぐ閉めろ!」
「……有り金見せるやつがあるか……ったく」
「……」
「北部方面って言ったな?」
「俺も同じ方向だからよ」
「……」
「……その金、俺に預けてくれたら、連れてってやるって言ったら、どうする?」
「———ほんと?ありがとう」
パックがまた笑顔で巾着を差し出した。
「……」
行商人は額に手を当てた。
「……ダメだこいつ……」
———その数奇な巡り合わせは、誰が導いたのか……二人の間に、一筋の風が通り抜けた。




