第048話|ココ編【……守るって決めたから】
———とうとう、パックとアーラの“噂”が独り歩きをして、王都にまで侵食してきた。
“魔族に寝返った人間”の噂だった。
誰が言い出したのか分からない。
だが、噂は確実に広がっていた。
市場でも、酒場でも、教会でも。
人々は不安そうに囁き合う。
「勇者トールの死も、関係しているらしい」
教団は、その不安に寄り添い、
そして利用した。
———「勇者の加護が、あなたを守ります」
トールの護符は飛ぶように売れた。
———ココの屋敷
パックが肩を落とす。
「……ココ、ごめん。こんなことになるなんて……」
ココの肩が震え、声まで震えた。
「……謝らないで、パックは悪くない」
「あなたは正しい。……正しいことをしたのよ……」
「……お願いだから、自分を責めないで……」
パックは窓の外を見ていた。
パックの背中に手が伸びて、止まる。
そして、伸ばした手を握りしめた。
———教団本部
希少なチーズが載ったクラッカーを口に運ぶ。
銀の聖杯をくるりと回して一口含んだ。
「例の“噂”、出どころは掴めたんですか?」
側近が答える。
「……未だ調査中ではありますが、北東部方面で当たりをつけております」
サンデルが頬の傷跡に触れる。
「……北東部方面……先の魔物討伐も北東部でしたね?」
側近が目を伏せたまま答えた。
「……はい」
銀の聖杯をくるりと回す。
「……」
「……勇者の娘が戦災孤児を引き取ったと聞いたが、調べは?」
側近が脂汗を拭き取る。
「急ぎ、手配いたします」
聖杯を強めに置く。
「そういうのは、先に済ませておきなさい」
側近は聖杯を置く音で肩を跳ねさせた。
「はい」
———ココの屋敷
ココの部屋のドアがノックされる。
「……ココ様。ご報告がございます」
執事長だった。
「……教団から、“護衛”と“使用人”が増員されます」
「“警備強化”だそうです」
ココの空気が変わる。
「……」
「……わかった、ありがとう」
ココはパックの部屋に向かった。
———ノックをしようとした手が、一瞬止まる。
それでも、ドアをノックした。
「……話があるの」
ドアが開かれた。
「———!」
ココの心臓が一度、大きく跳ねた。
パックが旅支度をしていた。
「……」
「……なに、してるの?」
パックが笑う。
「……僕がここにいたら、みんなに迷惑がかかるから」
「みんな、いい人たちだから……」
ココの声が震える。
「……迷惑なんて……大丈夫よ。私がなんとかするから……」
パックが首を振る。
「言ったでしょ」
「……トールが僕を守ってくれたように」
「……君を守るって決めたんだ」
その言葉がココの心に深く入り込む。
「……あ」
胸の前で握られた手に力が入る。
パックが続ける。
「……僕がここにいたら、君を危険にさらす」
「それだけは、したくない」
「大丈夫、心配ないよ」
「……」
「……元に……戻るだけさ……」
ココの口が開く。
だが言葉が出てこない。
心の中で同じ言葉が繰り返される。
(……行かないで)
(……私にも、守らせて)
パックはすでに“ココのナイフ”を腰に着けていた。
それをココに見せて“本当の笑顔”を浮かべた。
「———大切に使うよ。トールのナイフは、ココに預けるから」
パックはココの表情を見て、気持ちを察した。
パックは笑って言った。
トールならきっと、こう言うはずだ。
「———光栄だなって」
そう言い残し、パックは部屋を出ていった。
ココはひとり、部屋に残された。
そして、ココは目を閉じた。
涙が頬をつたい、落ちた雫が床を濡らした。




