第047話|ココ編【……天使って、褒めすぎよ、それ】
執事長は声を潜めた。
「護衛が来ます。おそらく、ナイフの件かと」
「———!!」
ココに緊張が走る。
———二人の安息の時間が、一瞬にして張り詰めてしまう。
「……それと、これを」
布に包まれたものを差し出した。
それは、ココの刻印が入ったナイフだった。
ココはそれを両手で受け取る。
執事長を見た。
執事長の目が細まった。
ココは振り返る。
照れながら上目遣いでパックに見せる。
「……プレゼントって、これなんだけど……」
新品の革製の鞘と、細部にまで装飾が施された柄。
ひと目で高価と分かるようなナイフだった。
「……受け取ってくれる?」
パックが溜め息混じりで呟く。
「……すごい」
すると、ドアがノックされる。
パックは慌てて引き出しにしまった。
護衛の声だった。
「荷物を改めさせていただきたいのですが、よろしいでしょうか」
二人が顔を見合わせて頷いた。
パックがドアを開ける。
食事の時にいた護衛だった。
「失礼します」
有無を言わさず部屋の中へ入ってくる。
護衛が足を止める。
「……ココ様、なぜこちらに?」
ココは澄ました声で答えた。
「ちょっと話があってね」
「荷物を改めるって……」
「……彼は私が連れてきたのよ?」
護衛が答えに詰まる。
「……職務上の確認だけです。問題なければすぐに終わります」
ココが珍しく嫌味を言う。
「……信用ないのかしら、私」
護衛は気まずそうに目を逸らした。
「……申し訳ございません」
そう言って所持品を漁り始める。
パックの荷物は少ないのですぐに終わった。
護衛が机の引き出しを指さして言った。
「そちらもよろしいでしょうか」
パックの喉が動いた。
護衛が引き出しを開けると——
ココの刻印入りのナイフが入っていた。
護衛の動きが止まる。
「……なぜ、これを?」
パックが口を開くと、ココがかぶせるように言った。
「お返しよ。戦場で助けてもらったの。彼が持っていたナイフの代わりを用意したの」
護衛は黙ってパックを見た。
パックはなぜか謝った。
「……こんな高価なものを、ごめんなさい」
「……宝物にします」
本心だった。
護衛は少し黙り、それ以上、詮索してこなかった。
「ココ様、失礼いたしました」
護衛は、ココだけに挨拶をし、一瞬パックに視線を移してから退室した。
ドアが閉まる。
パックは盛大に溜め息を漏らした。
「……今のが教団の人?」
ココも溜め息をつく。
「そうね、多分監視が仕事なのよ」
「普段はここまで入ってこないんだけどね」
「……仕方ないわ」
ココはパックの言葉を思い出した。
そして、照れくさそうに言った。
「……ねえ」
「……宝物にするって、本当?」
パックは一瞬考えてからハッとする。
パックは満面の笑みになる。
「本当だよ!ありがとう」
「……大切にする」
そう言って“ココのナイフ”を鞘から抜いてまじまじと眺めた。
トールの刻印と違い、翼を広げた天使の刻印だった。
(……本当だ、刻印が違う)
「ココは、天使なんだね」
「——!?」
パックは刻印を褒めたが、ココが少し勘違いをする。
ココは耳まで真っ赤になって、俯いた。




