第046話|ココ編【……良かった】
———パックの部屋
食事も喉を通らない。
パックは眠れなかった。
バルコニーに出て、北極星を探す。
トールが教えてくれた星だった。
アーラに教えてあげた時、とても驚いていたのを思い出した。
優しい夜風がパックの髪を撫でた。
トールに褒められ、頭を撫でられた時の感覚だった。
「……トール?」
北極星はいつもそこにいた。
迷わないように、いつも導いてくれた。
そして、兜型の星雲も探した。
トールの星だった。
花嫁の格好の話を思い出し、吹き出した。
パックの中に空いた穴が、少しずつ埋まっていく。
パックは一人じゃなかった。
星を見て、それに気づいた。
その夜、パックは優しい夜風に吹かれながら、風と話を続けた。
———翌日
使用人に連れられてパックが食卓に顔を出した。
頭には寝癖はなく、身だしなみは整っていた。
「……ナイフのことだけど———」
ドアの外に立つ衛兵の肩が動く。
“ナイフ”という単語に反応した。
——咄嗟にココが制する。
「———後で話しましょ。先に食事」
笑顔が引きつった。
執事長がハラハラする。
ココと執事長は、護衛が反応したのに気づいたが、視線を向けないようにした。
ココは食事の味を、あまり感じられなかった。
———パックの部屋
ココがドアをノックする。
「……入ってもいい?」
少し間をおいて、パックが答えた。
「……うん」
ココは部屋に入ると、ドアに鍵を掛けた。
執事長はココがパックの部屋に入るのを見ていた。
それは、我が子を見守る目に似ていた。
そして、護衛の動きを警戒する。
ココが先に話し出した。
「……食べてくれて安心したわ。心配していたのよ」
「……」
「……私、パックの気持ちを考えずに、ごめんなさい」
「……」
パックの目が優しくなる。
「ううん、僕の方こそ……ごめん」
「僕を、守ろうとしてくれたのにね……酷いこと言っちゃって」
ココは胸の前で手を握った。
胸が熱くなる。
ココの中に居座っていた“重り”が徐々に溶けていく。
「……この屋敷にいる護衛ね。教団からの派遣なの」
「……気をつけて」
パックは真っ直ぐにココの目を見た。
「……わかった」
「……ナイフは、ココに預けるよ」
「……でも、捨てないで欲しいんだ」
ココが即答する。
「そんなことはしないわ!」
「……私だって、トール様を尊敬しているもの」
「……」
「……あのね、代わりのナイフをね……プレゼントしたいの」
「……受け取ってくれる?」
パックが笑顔になる。
「ほんと?嬉しい」
パックの笑顔がココの胸に刺さった。
「———っ!!」
ココの耳が熱くなる。
「……良かった」
ドアがノックされる。
ココの肩がびくりと跳ねた。
「——ココ様」
執事長の声だった。
すぐにドアを開ける。
執事長は声を潜めた。
「護衛が来ます。おそらく、ナイフの件かと」
「———!!」
ココに緊張が走る。
———二人の安息の時間が、一瞬にして張り詰めてしまう。




