第045話|ココ編【……僕は、何を間違った……】
執事長の部屋のドアがノックされた。
ココだった。
執事長はドアに鍵を掛けた。
ココが慎重に話し始める。
「……共有しておいた方がいいと思って」
「何から話したらいいかな……」
「まず、彼に害はないわ」
「それだけは保証する」
執事長は黙ったまま聞いていた。
「話せないこともあるけど、教団には何か秘密がありそうなの」
「……護衛には要注意ね」
「……それと、トール様のナイフだけど、事情を話して、うちで預かった方がいいかも」
「彼には新しい物を用意してあげて欲しいの」
「かしこまりました」
「彼よりも、教団側の動きに注意して」
「……私、彼を守りたいの」
執事長の細い目が一瞬見開かれた。
「……承知いたしました」
ココは目を伏せた。
「……秘密ばっかりでごめんね」
執事長の目尻が下がる。
「いいえ、話して頂いて光栄でございます」
「ナイフはすぐに手配いたします」
ココの空気が柔らかくなる。
「……ありがとう」
執事長が珍しく口を開く。
「私からも、一つよろしいでしょうか?」
ココが顔を上げた。
「えっ?う、うん」
執事長の目が更に細まる。
「今後、何か選択を迫られた時、勇者としてではなく、ココ様の気持ちで決めて欲しいと思っております」
「……」
ココは熱いものが込み上げてくる。
目に涙がにじんだ。
「……うん、ありがとう」
———翌日
ココがパックの部屋のドアをノックした。
「ちょっと、話があるの。いい?」
あまりよく寝られなかったパックが、のそりと起き上がる。
ドアが開く。
ココの目が丸くなる。
ひどい寝癖だった。
ココが吹き出す。
「ふふ……よく眠れた?」
パックが目を擦る。
「……あんまり」
ココが少し遠慮する。
「……あとにした方が良い?」
パックが答えた。
「……いいよ、大丈夫」
「入るわね」
そう言って、廊下に人の気配がないことを確認し、ドアに鍵を掛けた。
ココの目が、チラチラと寝癖に向く。
「……本当に、すごいわね」
笑顔がこぼれた。
すぐに、目が真剣になった。
「……あのね、トール様のナイフなんだけど」
「うちで預かった方が良いと思うの」
「……」
パックの動きが止まる。
ココが続ける。
「トール様の刻印が———」
そう言いかけると、パックが遮った。
「……なんで、ココは、僕から取り上げるの?」
「……え?」
ココが顔を上げた。
「……アーラも」
「……トールがくれたナイフも」
「僕の大切なものを……全部……」
ココが焦る。
「——違うの!ナイフにはトール様の刻印が入ってて、教団に知られると大変なことになるから……」
パックの目から生気が抜けていた。
ココは自分の迂闊さを後悔する。
「……あ……」
パックはもう、ココを見ていなかった。
ココはかける言葉を失った。
「……」
伸ばした手が途中で止まってしまった。
パックが声を絞り出す。
「……ごめん、一人になりたい」
ココの手が震え、胸が締め付けられた。
ココはそのまま部屋を出るしかなかった。
部屋を出たココは、ドアの前で立ち尽くした。
心臓が早鐘を打ち、呼吸が苦しくなる。
(……私……パックの気持ち、全然考えてなかった……)
ココは俯いたまま動けなくなっていた。
視界に誰かの足が映る。
ココの前で止まった。
ココは顔を上げた。
———執事長だった。
ココが何かを言おうとすると、執事長が口を開いた。
「ココ様は悪くありません。私でも同じことをいたします」
「パック様も、きっと分かってくださいます」
「今は、そっとしておいてあげましょう」
ココの気持ちが溢れてしまう。
「……ナイフの件だけじゃないの。私は……私は……」
執事長は続けた。
「理由は存じ上げませんが……ココ様の判断であれば、きっと大丈夫ですよ」
———朝食の時間
使用人がパックの部屋をノックする。
「朝食の準備ができております」
……少しの沈黙。
声だけが返ってくる。
「……ごめん、食欲がないんだ……」
「……かしこまりました」
使用人はそう答えるしかなかった。
———それからパックは、食事に顔を出さなくなってしまった。




