第043話|ココ編【……そんなの、聞き分けられないよ……】
ココがリンゴ林に到着する。
周辺を捜索したが、パックたちは見当たらなかった。
ココは肩を落とす。
そして、リンゴを採って齧り、一息ついた。
「……はぁ、やっぱりダメね……」
「当てずっぽうに探したって、見つかるわけないもんね」
しばらく呆けていた。
———何かの気配。
鞄からオーブを取り出す。
地面に大きな翼の影が走った。
「———上っ?」
ココは見上げ、構える。
……見覚えのある翼だった。
そして、背に乗る人影が見えた。
肩の力が抜ける。
込み上げる感情。
胸が高鳴る。
影の正体は、パックたちだった。
アーラが着地に失敗して転ぶ。
パックが転がり落ちた。
「……いててて……」
パックが背中を押さえて呻く。
ココが駆け寄る。
「———ちょっと、大丈夫?」
パックが見上げて笑う。
「アーラの怪我がまだ治ってないんだ、ハハハ……」
ココが溜め息をつく。
「もう、びっくりしたわ」
それでも、顔は笑っていた。
手を差し出す。
パックが手を握る。
———二人は共鳴する。
ココは共鳴を心地よく感じた。
パックが立ち上がり、埃を払う。
「大丈夫?アーラ」
アーラが溜め息をつく。
「ああ、よく確認してから飛び立つべきだったな」
パックがココの方に向き直る。
「どうしたの?僕たちに用があったの?」
ココはバスケットから、恥ずかしそうに“何か”を取り出した。
「———これ、食べながら話しましょ?」
———アップルパイだった。
パックが驚く。
「えっすごい!どうしたのこれ」
ココは口ごもる。
「……作った」
「えっ?」
パックが聞き直す。
ココの耳が赤くなる。
「私が作ったの!」
「さっ、食べましょ」
照れ隠しができていなかった。
アーラが、ぬっと覗き込む。
「……何だこれは」
ココがビクッとしてパックに確認する。
「……あ、大丈夫……よね?」
パックが笑顔で答える。
「興味があるみたい」
アーラに説明する。
「リンゴのパイだよ。ココが作ってくれたんだって」
アーラが答える。
「……ほう、良い匂いがするな」
「食わせろ」
パックがココに通訳する。
「食べたいみたい、あげてみる?」
ココが目を丸くする。
「……私が?食べさせるの?嘘でしょ?」
パックが笑顔で答える。
「嘘じゃないよ。手の上に乗せて、あげてごらん?」
ココは恐る恐る差し出す。
大きなくちばしが迫る。
ココの体がこわばる。
思わず目を細める。
アーラが呟く。
「この小娘、戦闘の時と大違いだな。ビビりすぎだ」
……パックは訳さなかった。
アーラはくちばしが手に当たらないようにアップルパイを摘み、上を向いて食べた。
アーラの目が見開かれる。
「……何だこれは。リンゴより美味いぞ。もっとよこせ」
パックが訳す。
「美味しいって言ってるよ!」
ココの顔がぱあっと明るくなる。
パックの喉仏が動く。
「僕も食べていい?」
ココが得意げになる。
「もちろんよ!」
アーラがバスケットを覗き込んでいる。
「……もうないのか?」
ココが慎重に話し出す。
「よく聞いて。あなたたちのことが、噂になるかもしれないの」
「……教団に知られたら、厄介なことになるわ」
「目立つ行動は、控えてほしいの」
パックの空気も変わる。
「そっか、知らせに来てくれたんだね。ありがとう」
そう言って、ココの目を見つめた。
ココは目を逸らし、耳が赤くなった。
「別に、そういうんじゃないけど……」
ココの表情が神妙になる。
「これは提案なんだけど、あなたたち、しばらくの間、離れて行動した方がいいわ」
パックの笑顔が消える。
「……それって、どういうこと?」
ココが続ける。
「言葉のままよ。噂が広まれば、捜索隊が組まれる」
「……もし見つかった場合、命の保証はないわ」
「パック、私と来ない?」
「……戦災孤児という形にして、私が引き取るわ」
パックは言葉を失う。
「……」
「……アーラに、聞いてみる」
アーラが口を開く。
「小僧、大体わかった」
「人間の子どもを助けた時点で、予想はついていた」
「……達者でな」
「……僕、やっぱりアーラと———」
パックがそう言いかけると、アーラが遮った。
「お前は足手まといだと言っている。聞き分けろ」
パックはそれ以上何も言えなくなってしまう。
「……足手まといは、俺かもしれんがな」
「とにかく、ほとぼりが冷めたら、またここに来ればいい」
「……そういうことだ」
パックは拳を握りしめた。
「……わかったよ」
アーラが翼を広げる。
「……死ぬなよ、パック」
そう言って飛び立つ。
ぐんぐん高度を上げる。
アーラは振り返らなかった。
ふと、思い出す。
パックのマフラーを巻いたままだった。
アーラが鼻を鳴らす。
「……返すまで死ねんな」




