第038話|ココ編【待たせたわね】
大きく開かれたくちばしが、
空気を裂いて迫る———。
次の瞬間。
高速で迫るくちばしが、子どもを“ふわり”と咥えた。
恐怖で硬直する子ども。
アーラは少し安心した。
「……そのままビビっていてくれると、助かる」
直後、
———スピードが落ちた。
高度が下がり始める。
アーラは力強く羽ばたくが、すぐに高度が下がってしまう。
(……やはり……キツいっ)
次の瞬間。
四足魔族が家の壁を蹴って飛び上がる。
アーラの“翼”を目がけて、爪が空を裂いた。
鋭い爪が迫る。
わずかに旋回して、爪を避ける。
———だが、もう一頭。
旋回して少し高度が下がったところに、もう一つの爪が襲いかかった。
空気が裂ける。
時間が止まる。
次の瞬間。
アーラの脚から鮮血が飛んだ。
アーラの顔が歪む。
「ちぃっ、やられた」
そして、前方に大きな木。
——旋回。
翼が傾き、目前の大木を掠める。
四足魔族が木を蹴って襲いかかる。
そして、逆旋回。
爪が翼を掠める。
木々の間を、縫うように羽ばたいた。
だが、四足魔族は木を蹴って加速してくる。
アーラが舌打ちする。
(このままじゃ、時間の問題だ)
子どもを咥えたままでは、音攻撃もできない。
その時だった。
木々の奥から馬のいななき。
アーラが最後の木を旋回で避け、視界が開ける。
見覚えのあるマント。
小柄な輪郭。
翠の長い髪が、ふわりと浮いた。
その横を、アーラたちがすれ違う。
ココと目が合う。
「……あとは、任せた」
ココが視線を四足魔族に戻した。
———オーブが翠に輝いた。
無数の真空の刃が、四足魔族へと放たれる。
その刃は四足魔族の皮膚を斬り刻む。
四足魔族は血飛沫を上げて吹き飛び、高い鳴き声をあげた。
オーブを構えたその人物は、軽やかに馬から飛び降り、馬をぽんと叩いた。
馬が走り出す。
「離れてなさい」
ココの魔法は、単体の威力はそこそこだが、
数の不利を覆すほどの多彩さを誇る。
「“数”だけでは私に勝てないわよ」
四足魔族がよろめきながら起き上がる。
目にはまだ狂気が宿っていた。
オーブが光を吸い込み漆黒へと変化する。
四足魔族の目から光を奪った。
目の前が暗くなる。
そしてオーブが色を変える。
鮮やかな青に輝く。
大気が乾き、大地の水分も吸い取られる。
オーブが光る。
四足魔族の足が一瞬で凍る。
視界と動きを封じた。
そしてオーブは紅へと色を変える。
ココの翠の髪が逆立ち、炎を纏う。
そして、四足魔族たち目がけて火球を放った。
直撃。
四足魔族たちは燃え上がり、足元の氷も溶けていった。
四足魔族たちが一斉に断末魔の遠吠えをする。
直後、
応えるように、村外れから遠吠えが響く。
ココが警戒する。
「……まだ、いるのね」
———その声の主が、静かに忍び寄ってきていた。




