第035話|ココ編【……本当に私を、守った……】
パックが走り出してしまう。
顎の魔族の目がパックを追う。
瓦礫を咥え、パックに向かってそれを飛ばした———。
「だめっ!!」
ココが叫ぶ。
(———間に合わない)
オーブが翠に輝く。
自らに突風を浴びせる。
だが、その風魔法はココの制御を超えていた。
動いたのは“お節介な風”だった。
「———っ!!」
ココがパックに向かって吹き飛ぶ。
パックは向かってくる瓦礫を見て硬直してしまう。
だが———ココのスピードが瓦礫の速さを上回った。
パックに抱きつく。
瓦礫がココのマントを掠めた。
二人は飛ばされる。
———ザァッ!
土煙が上がる。
二人の影が動いた。
だが、顎の魔族は待ってはくれない。
二人に向かって突進する。
その時だった。
「———俺を忘れるなよ?」
アーラが倒れた二人を庇う形になる。
「耳を塞げ!!」
パックがココの耳を塞ぐ。
ココは咄嗟にパックの耳を塞いだ。
アーラの口が大きく開く。
———ギィィィィン!!
高出力の音が顎の魔族に直撃する。
顎の魔族が怯む。
ドドドン、とたたらを踏んだ。
顎の魔族が頭を振っている。
アーラが吠えた。
「怯んだだけだ!すぐ来るぞ」
その時だった。
ココのオーブが輝く。
色は——
金の土。
紅の炎。
二つの光が混ざり合い、渦を巻いた。
ココは直感でその力を操った。
顎の魔族の足元に魔法陣が浮かび上がる。
オーブが輝く。
魔法陣の内側の地面が赤く変化する。
ずぶり、と顎の魔族の足が埋まる。
じゅわぁ、と焼ける音。
大地がマグマのように変化した。
顎の魔族がもがくが、遅かった。
膝まで埋まる。
焦げる肉。
巨体が大地に飲み込まれてゆく。
そして咆哮。
力強さは無かった。
もがいた。
そして、二度目の咆哮。
それは、断末魔だった。
アーラはその光景を静かに見守る。
(……同胞よ、同情はする。安らかに、眠れ……)
やがて魔法陣が消えてゆく。
ガラリと瓦礫が崩れる音がして、静寂が訪れた。
焦げた大地から、まだ煙が上がっていた。
ココが呟く。
「……ちょっと、いい加減、放しなさいよ……」
パックがまだ、ココの耳を塞いでいた。
「あっ、ごめん」
そう言ってパッと手を離した。
ココが溜め息をつく。
「色々と、聞きたいことがあるんだけど……」
そう言いかけた時、アーラが唸った。
「……人間が来る、小僧、行くぞ」
アーラが背を低くする。
パックがココの方を見る。
ココの手が伸びる。
パックはアーラの背に飛び乗る。
アーラはパックを乗せて、そのまま飛び去っていった。
———上空
アーラは黙っていた。
小娘が別れ際に残した音が、パックに向けられたものだったこと。
それはアーラには説明のできない音だった。




