第032話|ココ編【敵に、集中しなきゃ……でも……】
顎の魔族の視線が、動くものに釣られる。
すかさずココが吼えた。
「お前の相手は、私だっ!!」
オーブが翠に輝く。
ココの宝石のような翠の長い髪が、ふわりと浮く。
一瞬の凪。
落ち葉が高速で回転を始める。
竜巻が昇り、顎の魔族を飲み込む。
その鋭い風は、顎の魔族の硬い鱗を切り裂いた。
だが、顎の魔族の巨体は抑えきれなかった。
竜巻の中心から徐々に前進し、鱗がボロボロになった顔を出す。
顎の魔族のこめかみに血管が浮き出る。
巨体を回転させる。
尻尾が唸りをあげてココに襲いかかる。
「———早いっ!!」
ココは叫ぶと同時に、オーブを構えた。
オーブが鮮やかな青に輝く。
大気と大地の水分が集まる。
水の壁が立ち上がる。
尻尾が水圧で減速する。
その隙に回避しようとする。
———だが、突き抜けてくる。
「———くっ!!」
ココはバックステップして両手で防御した。
尻尾の先端部がガードに直撃する。
———ココは吹き飛ばされた。
家屋の壁が迫る。
オーブが翠に輝く。
突風が吹き、スピードが緩む。
ココが壁に打ち付けられた。
「カハッ!」
肺の空気が押し出された。
ココがよろめきながら立ち上がる。
「———っ、ならばっ!!」
すぐさま構える。
オーブが“金”に輝く。
大地から無数の石が浮かび上がる。
それらは組み合わさり、ココの頭上で槍へと姿を変える。
オーブが光る。
その瞬間、石の槍が顎の魔族に襲いかかる。
だが、顎の魔族は槍に噛み付いた。
槍にヒビが走る。
ココが息を呑む——。
「———あれを砕くというのっ?!」
次の瞬間、槍が噛み砕かれた。
———上空
急行するアーラが反響音をキャッチする。
「……小僧、悪い知らせだ」
パックが反応する。
「えっ、まさか……」
アーラの目が鋭く光る。
「ああ、残念だが……この音は、壊れているな」
「……だが、もう一つは良い知らせだ」
パックが顔を上げる。
「えっ?」
アーラの目が細くなる。
「……あの時の小娘がいる。……倒せるかもしれんな」
アーラはもう一つ、気になる感覚があったが、言わなかった。
それは村の中からの違和感だった。
村が見えてくる。
村外れの家屋から火の手が見えた。
黒煙が上っていた。
アーラが再度スキャンする。
「あそこだな、かなり大きい個体だ」
「苦戦……しているのか?小娘は無事だな」
(“村の中”が気になるが、とりあえずは小娘だな)
アーラは少し旋回して、ココの元へ向かった。
ココは上空から迫る気配に気づく。
顎の魔族を警戒しつつ、上を見た。
———大きな翼の影。
「———っ!!」
一瞬固まる。
ココの心臓が大きく動いた。
「……まさか」
翼の魔族の背に人影が見えた。
「……あの時の」
翼の魔族はふわりと着地する。
背中の人影が飛び降りる。
「大丈夫?」
———あの時の少年の声。
少年が駆けてくる。
ココの胸が高鳴った。
「……無事……だったんだね……」
次の瞬間———
顎の魔族の咆哮が、大地を震わせた。




