第030話|ココ編【……声まで、大きいわね……】
———上空
パックが体勢を低くする。
「南西部なんて、けっこう遠いのに分かるの?」
アーラが力強く羽ばたく。
「ああ、距離があると正確な位置や、輪郭などは分からないがな……」
「だが、ほぼ間違いない。同胞だ」
「……壊れていないことを、願うがな……」
パックは少し間を置いて答えた。
「……そうだね」
「アーラは大丈夫なの?同胞が……その……」
それ以上聞けなかった。
アーラが即答する。
「壊れた同胞に同情はするが、“元に戻れない”なら……仕方がないな」
「……お前が背負う必要はない」
パックは返す言葉が見つからなかった。
———地上
ココが体勢を低くして馬を走らせている。
ココは小柄なため、馬への負担は少なかった。
森の道を抜けると、視界が広がる。
———ココが見た光景は異様だった。
西の森から村に向かって薙ぎ倒されている木々の道。
そして、村の外れで暴れる魔族。
周囲の木々や家とのサイズ感がおかしい。
その巨大さは一目で分かった。
さらにその魔族の姿———。
巨大な頭と発達した顎。
太く、長い尻尾。
それらを支える、丸太のような脚。
その尻尾で木々を薙ぎ倒していた。
すでに村の外れに被害が出ている。
ココの背筋に冷たいものが走った。
「———っ!!」
「もう少し、頑張ってね」
馬に話しかける。
「ハッ」
馬の腹を両足で挟む。
手綱を緩め、再度体勢を低くする。
———風の圧が強くなる。
力強い蹄の音がリズム良く響いていった。
村に到着すると、馬の手綱は結ばずに、声をかけた。
「危なかったら逃げてもいいのよ?分かった?」
そう言って馬の首を撫でた。
馬は一度だけいなないた。
ココは逃げ惑う村人に話しかけた。
「被害者は?」
村人が鬼気迫る勢いで答えた。
「知らねぇよ!自分が逃げるので精一杯だ!」
村人の視線が、ココのマントの“勇者のブローチ”に止まる。
村人
「ゆ……勇者様?!」
「……助けに来てくれたのですね!」
ココが優しい目になる。
「もう大丈夫よ!」
ココが緊迫した表情に戻る。
「さぁ、急いで避難して!」
村人が慌てる。
「わ……分かりました」
村の早鐘が鳴らされている。
民家から転げ出る村人。
村中に悲鳴が溢れていた。
子どもの泣く声。
忘れ物を取りに戻るか迷う者。
誰もが、死の恐怖に混乱していた。
———次の瞬間。
重い咆哮。
空気が震えた。
一瞬の静寂。
悲鳴が上がる。
そして村人が転び、家畜が恐怖で暴れ出した。
ココは村への被害を抑えるため迎撃に出る。
「村の皆は、早く避難を!」
「……奴は、私が止めます」
———直後。
二度目の咆哮。
その咆哮は、ココの身体の芯まで響き、振動させた。




