第025話|ココ編【トール様を奪った魔族、絶対にゆるさない】
———北西部の村
ココの馬の蹄の音が、静まり返った村の小道に響く。
風に混じって、遠くで草木が揺れる音が聞こえた。
村は既に無人だった。
慌てて避難したような気配だけが残っている。
ココは馬を止め、周囲を見渡す。
「……誰も、いない?」
胸の奥で不安と緊張が静かに膨らむ。
何かの気配がする。
ココは周囲を警戒した。
次の瞬間。
民家の影から何かが飛び出してきた。
ココが身構える。
その正体は、一人の少年だった。
ココの目が見開かれる。
「……あなた、は?……」
パックも驚き、立ち止まる。
「……まだ逃げてなかったの?」
「早く逃げて!」
その少年の背後に見える巨大な影に目線を移す。
ココの手が震える。
「……魔族」
その言葉が、低く落ちた。
ココは馬から降りると、鞄から静かにオーブを取り出し、構えた。
「……動くな」
パックが慌てる。
「違う!戦ってる場合じゃないんだ!」
ココの目が鋭くなる。
「……あなた、何者?」
「なぜ魔族と一緒にいるの!」
「答えなさい!!」
アーラが溜め息をつく。
「……小僧、だから言っただろう……こうなるって……」
パックは一瞬言葉に詰まる。
「……待って、アーラは……」
「……この魔族は……人を襲わないんだ」
苦しそうに目を逸らす。
「理由は……言えない」
その瞬間――
ドォンッ
大地が揺れた。
ココの視線が、アーラと音のする方を行き来する。
村の奥で、何か巨大なものが暴れていた。
小屋の向こうから、二本の角が見えた。
ココの喉が鳴る。
「……」
そして、重い足音とともに、牛の頭部を持つ巨大な魔族が姿を現した。
その巨体は分厚い筋肉に覆われ、血走る金色の目は、我を失い狂気の色をしていた。
ココは一瞬、どちらを相手にするべきか迷う。
しかし、その迷いはすぐに消えた。
パックとアーラが、ココを庇うように前へ出た。
二人は背中で、ココを守る形になる。
パックが叫ぶ。
「来るぞ!!」
ココも叫んだ。
「あなた達こそ下がりなさい!」
ココのオーブの中心に火が灯る。
その炎がオーブを真紅に染めた。
次の瞬間、灼熱の火球が“壊れた魔族”へ叩き込まれる。
パックは唖然とする。
「……君、戦えるの?」
ココは“壊れた魔族”から目を逸らさずに答える。
「……話は後よ、下がってなさい」
噴煙の中から、無傷の“壊れた魔族”が姿を現した。
(……効いてない?……)
アーラが低く唸る。
「……小僧、この小娘、雷ほどではないが……なかなか重い音を持ってる」
パックがアーラの言った“雷”に反応する。
「……君は……勇者なの?」
声が震える。
「……そうだ、トール……」
「……君が勇者なら、トールを、知らない?」
ココが肩を揺らした。
「……トール?……」
「……あなた……知らないのね」
「……死んだわ」
「———!!」
パックの肩が跳ねる。
「……トール様はっ……」
「魔族に殺されたのよっ!!」
呆然と立ち尽くすパック。
「…………」
気付くと“壊れた魔族”が目の前まで迫っていた。
巨大な斧が、パックへ振り下ろされる。
「———っ!!」




