第023話|ココ編【トール様……私に、できるかな……】
———教団本部
磨かれた大理石のテーブルに、雑に鏡を置いた。
そして、銀製の聖杯に注がれたぶどう酒を煽る。
口角から弛んだ顎に赤黒い液体が滴ると、それをナプキンで拭った。
「新勇者の娘も示せたので、“魔族召喚”を行う」
「準備しなさい」
側近が焦る
「猊下、あの娘にはまだ早いかと……」
サンデルは続ける。
「早く慣れてもらわないとね」
「通常より数を抑えて」
「徐々に増やすんだ」
「分かったな?」
「……」
側近は諌める言葉が見つからなかった。
「……かしこまりました」
そう言って静かに退室した。
———礼拝堂
ココの一日は、礼拝から始まる。
それは教団への忠誠では無い。
自分が存在できている全ての因果と、己の祝福に対しての感謝だった。
そして、トールへの哀悼の意も捧げる。
使用人たちは、元々信心深くは無かったが、ココの直向きな姿勢に惹かれ、一緒に礼拝をするようになっていた。
トールの埋葬式以来、ココの存在が認知され、礼拝堂でもよく声を掛けられるようになっていた。
「ココ様、どうか無理をなさいませぬ様に……」
人々は、彼女の小さな身体を気遣った。
ココはいつもこう答えた。
「大丈夫よ!みんなは私が守るわ」
それでも、ココの心の内は穏やかではなかった。
ココには自覚があった。
自分の祝福の力がまだ不安定であることを、彼女は知っていた。
その不安を悟られぬよう、いつも笑顔で人々に接していた。
そして彼女は一人、誰にも言えぬまま悩んでいた———。
———北部地方
パックとアーラは北西部方面に不穏な気配を感じ取っていた。
パックが精霊の声を聞く。
「アーラ、北西部方面から危険な気配がするって、風が言うんだ」
アーラも答えた。
「ああ、さっきから感じている。この気配……記憶がある」
「同胞が、また召喚されているかもしれない」
パックが俯く。
「……召喚。また、繰り返される……」
アーラの目が鋭くなる。
「人間め……」
視界にパックが入る。
アーラはそこまで言いかけてやめた。
(……雷のやつ、やはり召喚とは無関係だったか。……これで、敵はハッキリしたな)
(……人間の“勇者”とやらは利用されているだけか)
人々を巻き込む厄災が、影のように静かに、しかし確実に動き始めていた。




