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第021話|ココ編【トール様が遺した意志を、引き継ぐわ】

———王都


教団の“北部地方魔族討伐戦”の結果は、新聞記事にこう書かれていた。


雷神トール戦死、聖騎士団は全員無事。

片腕でありながら、聖騎士団を守り、一人の死者も出さずに戦い抜いた。

勇者の名に恥じぬ戦いぶりだった。

と、報じられた。


参戦兵士たちは全員口を閉ざした。

その沈黙は家族を守るためのものだった。


トールの埋葬式の準備は粛々と進められた。


人々は遠方の村からも駆けつけ、静かに祈りを捧げ、トールへの哀悼の意を示した。


———教団本部


銀製の磨かれた鏡で、頬の傷跡を気にしている。


その時はいつも口調が荒くなる。


「片腕勇者の埋葬式で私が喋るのか!」


側近は額に脂汗を浮かべた。

「……申し訳ございません。ですが、猊下にお言葉を賜らないと示しが……」


乱暴に鏡を伏せる。

「もう良い、下がれ」


額の汗を拭う。

「……はい」


退出しようとした時、声がかかる。


「待て」


踵を返して駆け寄る。


指輪を弄りながら言う。

「埋葬式で、勇者の娘に挨拶させなさい」


側近は焦って諌める。

「お言葉ですが猊下、あの娘はまだ幼く、祝福の制御も不安定で———」


サンデルの細い目が側近の言葉を制する。


側近の額の汗が顎まで下がり、床に落ちた。

「……かしこまりました」


また鏡を見始める。

「……使えなければ、処分すれば良い」


———とある屋敷


ココの生まれた村は貧しかった。


だから、祝福を持って生まれたことは村総出で喜ばれた。


その経験から、ココは誇りを胸に抱き、育った。


そして、最も尊敬する人物は“勇者トール”だった。


ココはベッドにひれ伏していた。

「うぅ……ひっく、トール様……ひっく……」


扉がノックされる。


くすんと鼻をすする。


「……どうぞ」


使用人は静かに戸を開けた。

「……失礼します」


「ココ様、トール様の埋葬式で、お言葉を賜りたいと教団から依頼が来ております」


ココは涙を拭う。

「……私が?」


「……」

少しの間の沈黙。


ココの目に光が灯る。

「……分かったわ……トール様の意志は、私が引き継ぐから」


———埋葬式当日


その日は、青空が広がり少し冷たい風が吹いていた。


街で一番の中央広場で行われたが、訪れた人々が入りきれず、建物の上や路地までもが混雑していた。


そして、ココの演説が近づいていた。


ココは、じっとりと汗をかいた手を、握りしめていた。


名前を呼ばれるが、一度目は気づかない。


「———ココ様」


呼ばれてハッと顔を上げた。


使用人が優しく微笑む。

「……緊張されていますよね」


「でも、きっと大丈夫ですよ。あんなに練習しましたから」


そう言って飲み物を差し出す。


「……ありがとう。頑張るわ」

そう言って飲み物を口にすると、咽せた。


「けほっ、けほっ」


使用人が背中をさする。


すると、教団が迎えに来る。

「……勇者様、そろそろお時間です」


ココはひと呼吸おいて、立ち上がった。


開かれた扉から光が差し込む。


使用人は、光の中に向かうココの成長した後ろ姿を見て、涙を浮かべた。


ココが壇上に登る途中でつまづいてしまう。


「あぁ……」

民衆から心配する声が漏れる。


気にせず壇上に立つ。


まだ大きめのマントの裾を少し踏んでしまっていた。


ハラハラする民衆。


———だが、演説が始まると空気が一変した。


「今日は、私たちの勇者、トール様を見送る日です。

彼は片腕でありながら、私たちを守り、誰一人として見捨てませんでした。

その勇気と優しさは、私の胸に、そして皆さんの胸に、確かに刻まれています。」


少し息を整え、深く呼吸する。


「トール様は、私たちの悲しみの中に希望を残してくれました。

その意思は、今ここにいる私たちが受け継ぎます。

……私はまだ未熟です。

でも、トール様のように人々を守る勇者になりたいと、心から願っています。」


ココは目を閉じ、かすかに震える声で締めた。


「……悲しみは消えません。

……でも、私たちはその先に、……光を見つけることができます。

トール様が遺してくれた希望を、……決して……忘れません……」


聴衆の中には、涙をこらえきれない人もいた。


ココ自身も涙をぬぐい、強く胸を張る。

広場を埋め尽くす民衆を見渡す。

そして、トールが守ったこの世界を、自分が守っていく決意を胸に誓った。

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