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第017話|トール編【なん……だと……?】

索敵班が河原で子どもの足跡らしきものと、小さい歯型の残る果物を確認した。


「……隊長、これを」


その足跡は上流へと向かい、川の中へと消えていた。


「よし、追うぞ」


追跡の手は上流へと向かった。


だが、


その先にパックはいない。


パックは別方向の崖の上にいた。


何故こんな事が起きたのか。


———崖の上


パックは追っ手が迫っている事は“お節介な風”から聞いていた。


だから、追っ手にバックトラックを仕掛けていた。


———バックトラック


野生の獣が、自らの足跡を逆に辿り、追跡者を欺く知恵。


だが、これはトールの指示ではない。


トールとの旅で得た“獣の知恵”を応用していた。


パックは、追っ手に目も向けずにトールの戦況を見守った。


———上空


一方では、上空でも戦況を見張る者がいる。


“音を操る者”


翼の魔族。


(雷のやつ、一時はどうなるかと思ったが、さすがだな……)


(……そしてあの小さいやつも小賢しい、追っ手を撒くとはな……人間は面白い)


——親衛隊と術士隊


隊となってはいるが、わずか数名で編成されている。


だが、その実力は驚異だった。


彼らは祝福を持っている。


———魔法障壁を展開出来る“壁”


———魔法陣で相手の動きを止める“静”


———対象一人を塵に変える“滅”


トールは兵士たちの攻撃を捌きながら、サンデルに不意打ちを仕掛ける。


稲妻が迸る。


それを“壁”が魔法障壁で弾く。


今度は“静”が動いた。


空気が一瞬止まる。


トールの足元に古代文字が刻まれる。


それは魔法陣へと形を変える。


トールは地を蹴ってかわした。


———次いで“滅”


詠唱。


“滅”の掌から薄暗い球体が現れる。


それは次第に光を吸い、大きくなる。


そしてトールの背後に向かってゆっくりと近づいていく。


トールの髪が球体に吸われる。


盾を蹴ってかわした。


蹴られた兵士の槍が球体に飲み込まれた。


槍が球体とともに、静かに塵になった。


驚いたのは兵士たちだった。


「ひぃぃぃぃっ」


「や……槍が……槍がぁぁぁっ」


トールは周りの兵士たちに聞こえるように言った。


「死にたくなければ、退け!」


兵士たちは、もうトールを見ていなかった。


“滅”の出す球体に怯えていた。


“静”はトールの一瞬の停止を見逃さない。


トールの足元に古代文字が刻まれる。


“滅”が再び詠唱を始める。


——その瞬間


トールの髪が、稲妻を帯びて逆立った。


激しい閃光と轟音が、同時に起こる。


砂埃が舞う。


自らに稲妻を落としたトールに電流が弾ける。


足元の魔法陣は焼けた。


次いで迫る“滅”の球体。


そして、落雷。


稲妻を飲み込み、球体が塵になった。


「……やはりか」


“静”と“滅”が砂埃の中に立つ人影を見て理解する。


———仕留め損なった。


砂埃が風で流される。


そして、


“雷神”が姿を現した。


———静寂。


トールはサンデルに視線を固定した。


左側に側近。


両脇に近衛兵。


“壁”、“静”、“滅”はサンデルからかなり離れて配置されている。


狙いはサンデルただ一人。


だが、“壁”の存在が厄介だった。


トールの稲妻を弾く魔法障壁。


一瞬の判断。


トールの身体に再び稲妻が迸る。


青白い影をその場に残して、トールが消える。


その閃光はサンデルに一直線に迫る。


“壁”が動く。


トールの無数の落雷がサンデルを襲う。


“壁”がかろうじて稲妻を弾く。


次の瞬間。


“壁”の視界に閃光が走る。


ぐらり。


“壁”の視界が斜めになる。


その場に倒れた。


トールはサンデルを牽制して、“壁”の骨を砕いた。


サンデルは“壁”が倒れるのを見て、椅子から立ち上がり後ずさった。


“静”がトールを縛ろうとするが、魔法陣が追いつけない。


“滅”はサンデルへの誤射を懸念して球体を出せなかった。


トールの髪が稲妻で逆立つ。


「サンデルッ!!」


一直線にサンデルに迫る。


——その時だった。


トールの身体から稲妻が静かに消える。


失速するトール。


「……なん……だと?」


トールがすかさず剣を投げる。


近衛兵がそれを慌てて弾く。


その剣がサンデルの頬を掠めた。


尻餅をつくサンデル。


頬を抑えた手がぬるりと滑る。


赤黒く光る手の平を見たサンデルが、悲鳴をあげた。


「ひぃぃぃぃっ!!」


離れた位置から“静”が動く。


トールの足元に魔法陣が現れる。


トールがかわそうとする。


だが、雷の力が消えている。


———間に合わなかった。


トールの足元で古代文字が紅く輝いていた。


「———っ!!」


立ち上がるパック。


わなわなと拳が握られる。


精霊たちが一斉に止めようとするが間に合わなかった。


「トーーールッ!!」


パックは叫んでいた。


崖の上から放たれた悲痛の叫びは、戦場にこだました。

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