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第016話|トール編【あと、少し……】

トールはサンデルの喉元まで迫っていた。


目の前には盾を構えた重装歩兵がおびただしい数で待ち構える。


その後ろに弓隊。


そして、親衛隊と術士隊に守られた、


“サンデル”がそこにいた。


弓隊が整った動きで構えに入る。


静寂——


目の前の空がゆっくりと、地表から天に向かって黒くなる。


トールは動かない。


上空だけが動いた。


雷雲が渦を巻く。


そして、滝のような落雷。


遅れて轟音。


抜けてきた矢を、剣で弾いた。


トールが動く。


剣を真っ直ぐにサンデルへ向けた。


次の瞬間。


空が光る。


サンデルの頭上に、輝く雷龍が落下する。


遅れて轟音。


術士隊が魔法障壁でそれを防いだ。


椅子から肉が転げ落ちた。


トールが鼻で笑う。


「……そう簡単にはいかないか」


互いの牽制が終わる。


そして土煙が上がり、盾が動き始めた。


トールもゆっくりと歩を進めた。


トールが剣を握り直す。


体が沈む。


猫科の猛獣のような筋肉が、しなやかに伸びる。


そして、全身に稲妻が迸る。


次の瞬間。


トールは風を置き去りにした。


「———鉄では防げないぞ」


トールは重装歩兵の盾を蹴って軌道を変える。


———次


———また次


蹴られた鎧の兵士は全身に雷を受けて気絶した。


トールの視線はただ一点のみを狙っていた。


トールの背後から槍が迫る。


サンデルへの視線は外さず、それをかわす。


その視線を受けたサンデルの弛んだ喉が上に動く。


サンデルは無意識に、背もたれに背中を押し付けていた。


「ゆ……弓隊は何をしている! 弓隊は剣を取れ!」


弓隊は重装歩兵がバタバタと倒れる様を棒立ちで見ていた。


指揮官がハッと我に帰る。


「ゆっ、弓隊!! 剣をッ」


弓隊がバタバタと動き始めた。


弓隊は息が上がっていた。


疲れでは無い。


極度の興奮と恐怖。


装備を着ける手が震える。


ベルトが上手く通せない。


雷神がすぐそこまで迫っている。


兵士は無意識に呟いた。


「……装備なんて、意味あるのか」


目は開いているが、視線が定まっていなかった。


故郷の家族が頭に浮かぶ。


子どもの笑顔。


最後に見たのはいつ頃だったか。


気づくと手が止まっていた。


同僚の兵士に肘で突かれる。


「おいっ、しっかりしろ」


「く、来るぞ!」


兵士は重装歩兵隊を見た。


土煙の中、稲妻が地を奔る。


次々と倒れてゆく重装歩兵。


手が汗で滑る。


息が浅くなる。


動いていないのに、苦しい。


兵士は目を瞑り、切に願った。


(家に……帰りたい……)

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