第150話|ココ編【もう、なれているわ】
——城壁
兵士たちは、手すりに掴まり、身を乗り出していた。
パックとココが発動した魔法、“精霊の理”が見せた救いの光を、兵士たちはそれぞれの中で体験していた。
みな、大切なものを失ってきた。
その胸のつかえと向き合ってきた。
だが、あの光によって少しだけ救われた。
それぞれがみな、肩を震わせていた。
………………
…………
……
——数日後
各報道局から号外が配られた。
一面を飾ったのは……
「教団の司教、サンデル氏死亡。次期司教候補には元勇者のエイル氏が有力か」
との見出しだった。
——アカリの新聞社
アカリは他社の新聞をパサリと机に落とした。
「……どこも似たような記事ね」
そして、窓の外に見える澄み切った青空を見上げた。
「……侯爵様、ウチの記事読んで……」
——デズモンド邸
デズモンドの長男は、アカリの新聞社が刷った新聞を読んでいた。
紙面の見出しにはこう書かれていた。
『民を守るために——故デズモンド侯爵が追い続けた教団の闇』
「……父上……あなたは今や勇者だ……息子として誇らしいです……」
——エイル邸
使用人が執事長の部屋の扉をノックした。
「——エイル様に!……陣痛がっ!」
エイルの執事長は立ち上がった。
「——何だと!急いで医者を呼べ!」
ベッドの上でエイルは目を閉じ、両手でお腹をさすった。
「……トール……見てて……元気な子を産むわ……」
——ヘルの自宅
ヘルは椅子に寄り掛かり背もたれを軋ませた。
頭の上で両手を組んだ。
「……このあと売れる物は何だ……」
「——!」
「……やっぱりアレか……」
ヘルは顎に手を添えた。
「……いや、待てよ……」
——エリックの自宅
エリックの妻は焼き上がったグラタンを取り出した。
「……よし」
「ほら、あんたたち!ご飯できたわよ!」
「はーい!」
子どもたちの返事が揃った。
「僕、お父さんに食べさせてくる」
「……あ、ずるい!今日は私の番でしょ!」
「えー?そうだっけ?」
——墓地
元トールの執事長はそっと花をたむけ、祈った。
「……トール様……お仕え出来て光栄でした……」
——アーラの救護所
黒銀の竜は少し震え、目を固くつむった。
「……良いぞ、やれ」
アーラが消毒液の入った瓶を咥え、傾けた。
消毒液が黒銀の竜の傷口を洗い流した。
「——っ!?」
ピィィィィ……
黒銀の竜が叫んだ。
「……」
エルザと蜂たちは黒銀の竜の叫び声を聞いて黙った。
(……叫び声かわいい……)
ピットがつぶやいた。
「……最近ずっと、パックが帰ってこないね……」
アーラが鼻を鳴らした。
「……あぁ、ココの行事に参加するとかで、忙しいらしいな……」
「……しばらく帰ってこないだろ……」
「……つまんないな……」
ピットと蜂たちは声が揃った。
——ココ邸
ココはパックの襟を直した。
「……ちょっと、変なとこで折れてるわよ……」
「えっ、ごめん……着慣れなくて……」
「あとこれ、首が苦しいよ……」
パックは襟に指を入れた。
「今日は試着だからすぐ終わるわよ。我慢しなさい」
「……うん」
「……あとさ……大勢の人の前で喋るなんて無理だよ……」
「ほとんどは私が喋るから平気よ!パックはニコニコして隣で立ってれば大丈夫だから……」
「……でも……」
ココは人差し指を立ててパックの前に出した。
「……あのね……あなたは王都を救った英雄なのよ?……分かってる?」
「……僕そういうのいらないんだけど……」
「——ダメよ!」
ココは強めに指差した。
「——あなたは私にとって……」
「……」
ココの動きが止まった。
「……いや、何でもないわ」
ココは耳を赤くして後ろを向いた。
「……それよりさ……」
パックは窓を開けた。
そよ風が二人の髪を優しく揺らした。
「……何?」
「……」
パックはカーテンを握った。
「……僕、トールみたいになれるかな……」
「——え」
ココはパックの方を向いて言葉を失った。
「……」
そっと、隣に寄り添った。
「……もう」
「……ううん」
ココは頭をパックの肩に乗せた。
「……きっと……なれるよ」
『人ならざる者、その声を聞く者』——fin…………
***あとがき***
ここまで読んでくださいまして、誠にありがとうございます。
『人ならざる者、その声を聞く者|教団に利用された勇者たちの戦記』
ひとまず完結となります。
令和8年2月から連載を開始して、同年10月に完結となりました。
途中、書けなくなることがあって、苦しんだ時期もありました。
構成を変えて、大改稿に踏み切ったり、矛盾が見つかり、大規模な修正が必要になったりして大変なこともありました。
でも、無事完結できたこと、自分を褒めてあげたいです。
一番悩んだのがメインタイトルです(笑)
「どうしたら読んでもらえるだろう」
と、いつも考えていました。
迷走して、何度もタイトル変更しましたが、結局最初に決めたものに落ち着きました(笑)
この作品は、各話タイトルがキャラの「声」になっています。
本文中に出てこないセリフも各話のタイトルにして、タイトルのセリフを心の中で本文に重ねると完成するという試みをしました。
また、この作品では序盤から、群像劇としての「時間の流れ」をかなり意識して書いてきました。
特に意識したのが、複数の場所で同時に進んでいく時間軸です。
あるキャラクターが行動している間にも、別の場所では別のキャラクターが動いている。
それぞれの場所で時間が同時に進んでいるため、一つの場面を長く描きすぎると、別の場所にいるキャラクターたちの時間まで止まって見えてしまいます。
いわゆる、「主人公が話している間、敵が待ってくれている」状態です(笑)
特に終盤では、ココが動いている間にもパックたちは王都へ向かい、竜たちも止まることなく王都へ迫っています。
そのため、あえてテンポを上げ、状況そのものが登場人物たちを急かすような構成を意識しました。
竜型魔族戦記では、「この場面を長く描いたら、その間ずっと竜がホバリングして待ってくれていることになる……」と何度も考えながら削りました(笑)
気になる話がありましたら、どうぞ読み返してみてください。
オマケですが、125話に登場する記者アカリ。お気付きの方もいらっしゃるかもしれませんが、処女作『アイ』の探偵アカリと同名で、特別出演させました(笑)
最後に、本作品を最後までお読みくださり、誠にありがとうございました。
ぜひ次の作品でもお会いできればと思っています。
ではでは。




